会いに行くだけの話






今日もやって来てしまった。

思わず、ため息が出る。
これで何日連続で来たのだろうか?少なくとも、一週間は来ているはずだ。

そんな事を考えながら、奥にいるであろうパチュリーの元へと向かう。



「あら、今日も来たの?」



出迎えた図書館の主は迷惑そうな顔をしてそんな事を言う。


私だって別に来たくてここに来ているわけではない。

まあ、そんな事は正直に言えるはずもないけれども。



「ええ、今日もお邪魔するわ」



それだけ返し、いつもと同じようにパチュリーの向かい側に腰掛けた。



「今日はどういったものをご所望なのかしら?」
「いつもの通り、適当に自分で見繕わせてもらうわ。上海、お願い」



そんな合図をすると、上海は本棚の並ぶ方へと飛んでいく。
さて、今日はどんな本にしようか。正直、今は研究に必要な資料はそろっていたりするのだけれど……。



「いらっしゃいませ、アリス」



そんな言葉と共に、目の前にお茶が突然現れる。



今日も、会えた。



そんな嬉しさで、胸がいっぱいになる。

思わず、笑顔になってしまう。



「こんにちは、咲夜」



その挨拶に、にこりと彼女も笑顔を返してくれる。

それだけで、幸せな気分になれて。



今日も来て、よかった。



そんな風に、心から思う。


彼女が笑う。
たったそれだけで、心がほわほわと温かくなって、どうしようもなく嬉しくなる。

恋する心って、なんでこんなに単純にできているんだろうか?



「最近よく来るのね」



その言葉に、ちょっとドキッとする。

もしかして、迷惑と思われているのだろうか?
きっと、こうやって話しているだけで咲夜の本来の業務の時間は奪われている。

あれ?もしかして、私ってすごく迷惑なのではないだろうか……?



「ええ、色々と調べるものがあって」



そんな不安を出さないよう、必死に笑顔を作る。
せっかく話が出来るんだから、そんな事、考えちゃいけない。





そんな風に、思っているのに。





「大変だったら、わざわざお茶はいいのよ?お茶くらい、自分で淹れられるし……」





思っている事と、逆の言葉が零れ落ちる。





違うのに。

本当は、ただあなたに会いたいだけなのに。





「大変なんかじゃないわ。毎日こうやってアリスにお茶を淹れられて、私は嬉しいくらいですもの」





思わず、自分の耳を疑った。

そっと、咲夜の方を見やれば、そこには顔を真っ赤にした彼女がいて。



それを見て、自分の顔の温度も上がっていくのを感じる。



「し、仕事に戻るわ!」



その言葉に静止をかける暇もなく、もう彼女の姿は消えていて。



何よ、その中途半端な言葉は。

期待、したくなるじゃない。



そんなこと言われたら、確認したくなるじゃない。



気づけば、私は走り出していた。



ねぇ、咲夜。

今すぐ、あなたに確認しなければいけないことがあるの。



走って、走って、走り回って。

見つけた咲夜の背中に、私はきっと叫ぶのだろう。



私が毎日紅魔館に通っていた、本当の理由を。







「……で、私達は忘れ去られた、と」



図書館に残された主は、一人誰に言うでなく呟く。



「まあこれでやっと静かに読書が出来るわけだけれど、ね」



そんな事を言って、一人嬉しそうに微笑んだ。



end



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