あなたの世界<前>





何も変わらぬ昼下がり。
相も変わらず、美鈴は門の前に立っていた。
 
今日も湖畔では、氷精とその仲間たちが遊んでいる。
きっとどこぞの紅白は縁側で暢気に茶を啜り、どこぞの人形遣いと黒白は、今日も仲良く喧嘩をしているのであろう。
 
そして今日も、何も変わらず幻想郷は時を刻んでいくのだ。
五年前のあの日からも、ずっと何も変わらずにそうしてきたように。
 
この紅魔館も、例に漏れず時を刻んでいる。
 
気づけば、あれから五年。
五年などという年月は、人外の者たちの住むこの館にとっては一瞬のような時間である。
 
だが、その五年という時間の中で、紅魔館はだいぶ変わった。
 
完全瀟洒なメイド長の死。
 
それひとつが、この紅魔館を変えたのだった。
 
いや、変えたといってはおかしいか。
ただ、戻っただけだ。
あの人間のメイド長の来る以前の紅魔館に。
  
紅魔館に住む住人達の心以外は、であるが。

咲夜がこの紅魔館で過ごした十数年足らず日々だって、住民たちにとっては一瞬の出来事のようなものだ。
だが、一瞬だというにはあまりにも楽しく、暖かな日々であった。
主が気まぐれで連れてきた人間の女の子、十六夜 咲夜。
たった数年という時間で人間の女の子は立派な女性へと変貌を遂げた。
人間とは、なんと成長の早いものなのかと驚いたものだ。
 
そして人間とはなんと儚いものなのであろうか。
 
彼女の肉体は、強力すぎるその能力を受け止め切れなかった。
 
段々と彼女の肉体を蝕み、彼女が倒れた頃には既にもう手遅れ。
手の打ちようがなかった。
それからまもなく、彼女は息を引き取った。
紅魔館の住人達から見守られ、静かに。
その場には、同僚であった私もいた。
 
「隊長、食事の時間です。交代するので行って来てください」
 
いつの間に来ていたのか、背後から声がかかる。
そこには門番隊の副隊長である妖精が立っていた。
 
「お疲れ様ー。もう少し休んできていいのに」
「それはこっちの台詞ですよ。隊長こそ、少しは休んでください」
「私は十分に休んでるから大丈夫」
「お言葉ですが、門に立っている時間が20時間なんて、いくら隊長だって身体壊しますよ?」
 
心配そうに、彼女は言う。

そんな顔に苦笑を返すと、とりあえず食事をしに館内へと足を向ける。
 
正直言えば、身体が壊れてしまうのなら壊れてしまえばいいのだと思っている。
壊れてしまえば、きっと…。
 
『美鈴、お茶が入ったわ。少し休憩にしない?』
 
館内に入ろうと扉をくぐろうとした瞬間、ふと、あの人の顔が目に浮かんだ。
 
『わー!いいんですかー?』
『ええ。ただし、この後居眠りでもしたらどうなるかわかってるわよね?』
『はいぃぃ…』
 
あの時は、あの笑顔が心底怖かったものだ。
 
「……っ!」
 
ああ、まただ。
どうしようもなく、また彼女が恋しくなる。
本当に、気を抜けばすぐこれなのだから困ったものだ。
 
「私も本当に馬鹿ですねぇ……」
 
一人、つぶやく。
こんな気持ちになるのなら、思い出さなければ良いだけの話なのに。
そのままその場にうずくまると、少しだけ泣いた。
 
何度こうやってあなたを思い出したことだろう?
何度こうやって涙を流したことだろう?
何度こうやって、あなたを恋しがったのだろう?
 
あなたはもう、この紅い館にはいないのに。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



一方その頃、館主の部屋ではパチュリーとレミリアがランチを摂っていた。
五年前には傍らに控えていたメイドは、もういない。
 
「ねぇパチェ。こうやって二人っきりの食事に戻ったのはいつだったかしら」
「五年前よ、レミィ。あの子がいなくなってから、すぐ」
「そう、五年前だったわ。もうあの子がいなくなって、五年」
 
そう言って遠い目をするレミリアは、きっと咲夜のことを思い出しているのだろう。
パチェは気にした様子も無く、本を読みながらも器用に食事を進めていく。
本来なら食事をしなくとも生きていけるパチュリーではあるが、食事はこうやって親友と共に摂るのが日課であった。
本は離さないけれども。
 
そんなパチュリーは、思う。
レミリアは、立ち直ってきている。
咲夜を失った直後は、ひどいものだった。
食事も摂らず、睡眠もとらず。
人がいる前では泣きはしなかったが、きっと一人の時は泣いていたであろう。
それほどまでに、彼女の存在は大きかったのだ。
この紅い悪魔の心を、かき乱すほどに。
 
少々、妬ましいわね。
 
数十年も共にある私でさえ、きっとこの親友の心はここまで乱すことは出来ないであろう。
そう思えば、少し妬けるものだ。
 
もっとも、この親友以上に心を乱された者がいるのだが。
 
その者は紅魔館の門番、紅 美鈴。
 
咲夜存命の頃は、紅魔の剣と盾と呼ばれたほどの実力者であり、レミリアが全幅の信頼を置いているもう一人の従者である。
そしてきっと、この紅魔館中の皆から愛されている、そんな人物。
そんな彼女は、大きく変わってしまった。

元々咲夜が来る前から少々サボりがちだった彼女は、今では見るほうが辛くなるほど働き詰めである。
五年前から、仕事をしているところと食事をしているところ以外の彼女を見ることは本当に少なくなった。
それまでは何かにつけて館内でサボったり、門前で立ったまま居眠りをしていた彼女。
咲夜が来た時にさえ、館内一の不変を誇っていた彼女が、である。
 
理由など、明白。
彼女とあの子には、本当に固い絆があった。
そう、誰にも侵入することの出来ない、そんな関係だった。
誰の目から見てもわかるほどに、彼女たちはお互いを想いあっていたのだ。
もっとも、彼女たちはお互いの気持ちを確認したことなど無かったようだが。
こちらとしては何度ヤキモキした事かわからない。
楽しかったけれど。
 
「人間とは、本当に儚いものだったわ」
 
こちら側に戻ってきていたらしい親友が、しみじみとそう言う。
 
「でも本当にとても面白かった。たった、十数年。あまりにも短すぎたわ」
「そうね。人間としても、ずいぶんと短い生だった。でも、レミィ。あなたは知っていたのでしょう?こうなる事を」
「…そうね。だから、運命を変えようと何度もしたわ。でも、あの子は断固として頷かなかった。最後の瞬間まで、ね」
「そんな顔をするのなら、力ずくでも変えてしまえばよかったのに」
「いつになく意地悪なのね、パチェ。もう亡き者に妬いているのかしら?」
 
くすくすと、レミリアは笑う。
パチュリーは何も答えず、昼食のスープを啜った。

「さて、パチェ。ひとつ相談があるわ」
 
先ほどまでの雰囲気は無くなり、少しピリッとした空気が漂う。
 
「なにかしら?」
「わかっているでしょう?門番のことよ」
「ああ、そのこと」
 
どうやら二人は同じことを考えていたらしい。
そのままレミリアは続ける。
 
「あの子のこと、そろそろどうにかしないといけないわ。どうすべきだと思う?」
「どうすべき、と言われてもねぇ…。まだたった五年よ」
 
何をすべきかなんて、パチュリーにはわからない。
それほど大事な者を失ったことなど、彼女には無いから。
 
「じゃあレミィ。あなたは何か手があるの?」
「手があったらこんな風にあなたに聞かないわ。というかね、正直無理だと思うの。精神的に回復するには、まだ時間が足り無すぎるのだから。
でも、私が言っているのは、身体的なことよ。あのまま働き詰めでいけば、今度は美鈴まで失うことになる。すぐにとはいかないかもしれないけれど、少なくとも、近い内には」
「それには同意するわ。そしてこれ以上、この館の守りを薄くするわけにはいかない」
 
それでなくても、紅魔館はNo.3を失ったのに。
口には出さないが、二人は同じことを思っていた。
 
「そう、これは由々しき事態だわ。私は館主としてどうにかしないといけない。
この館の住人として、あなたにはこの深刻な事態を回避する方法を一緒に考えてほしいの」
「そうは言ってもねぇ…」
 
二人は頭を抱えるも、良い案は思い浮かばない。
彼女が回復するまで他の門番を置く、とも一瞬考えたが、却下。
彼女以上に信頼できる門番なんて、もう雇う気なんてさらさらない。
だが、このままでは本当に彼女を失いかねない。

明らかに今の美鈴は無理をしている。
というか、そうすることで自分を追い詰めている。
 
「あの子は、きっと倒れてしまいたいのよね…。気持ちは痛いほどわかっているわ」
「レミィ…」
 
それを乗り越えてきたレミリアのその言葉は、きっと当たっている。
 
でも、とレミリアは続ける。
 
「それでいいはずが無いの。だってそんなことをして、あの子が喜ぶはずがないのだから」
 
今の美鈴を見れば、きっと咲夜は悲しむはず。
そのことに気づけたから、私はこうやって立ち直れた。また前を向けた。
美鈴は早くそれに気づくべきなのだ。
 
そして、昔のように笑わなければいけないのだ。
あんな弱弱しい作り笑いではなく、周りの人をも笑顔にしてしまうあの笑顔を取り戻さなければいけないはずなのだ。
昔のように、暢気に門の前で居眠りのひとつでもしなければいけないのだ。
 
あの子は、そんな彼女が好きだったのだから。
 
「それでどうするつもりなの?私には、無理やりにでも彼女を寝かせるくらいにしか思いつかないわ。
でも、きっとそうしてしまったらもっと彼女は自分を追い詰めてしまう。正直、八方塞がり。あなたはどうなの?」
「…自分の話をすることぐらいしか、私にはできないわ」
 
レミリアは悔しそうに顔をしかめる。
 
結局、何も良い案は出ずにランチタイムは終わった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



吐いた息が、白かった。
 
「やっぱり夜は冷えますねー」
 
季節は秋とはいえ、この時間帯になれば否が応でも冷えこんでくる。
手を擦り合わせて暖をとろうとするも、特に意味は無い。
まあ正直、妖怪なのだからこの程度どうってことはないのだが。
 
『風邪を引かれでもしたら困るからよ』
 
また、彼女の姿が目に浮かぶ。
 
いつだったか、そんな風に言って手袋とマフラーをプレゼントしてくれたことがあった。
顔を背けたままそれが入った紙袋を渡してくる彼女がかわいくて、かわいくて。
 
『ありがとうございます!』
『ちょっ!?離れなさいよ!抱きつくな、馬鹿!』
 
どさくさに紛れて抱きつけば、頭にナイフを貰った。
ふっ、と自嘲する。
 
本当に、思い出が尽きない。
 
少しの間だったのに、どうしてこんなにも彼女との思い出は多いのであろう。
どうしてこんなにも苦しいのだろう。
 
私だって、妖怪の端くれである。
人間に紛れて暮らしてきたことだってあったから、別れだってあった。
 
でも、こんなに苦しくなることなど、一度も無かったのに。

もっとも、あんなに大事に想った人はいませんでしたがね…。
 
また、涙が零れてくる。
慌てて拭うも、次から次にと溢れ出して。
 
今、門前にいるのが自分ひとりで良かったと心から思った。
 
どうしてこんなにも弱くなってしまったのだろうか、自分は。
それとも、本当の自分は最初からこんなにも弱かったのだろうか?
 
ふと空を見上げれば、そこには十六夜の月。
彼女の、月。
 
「どうして…っ」
 
拳を門に叩きつける。
門が少し、揺れた。
 
「どうしてっ…どうしてっ…!」
 
少しだけ、門が凹んだ。
頭の冷静な部分で、今夜中に修理しなきゃなと他人事のように思った。
 
「どうしてっ!どうしてっ!!どうしてっ!!!」
 
パラパラと、外壁が少し剥がれていく。
その壁には、紅い痕。
下には、少し湿った外壁が散らばっていく。
それでも、彼女は繰り返す。
 
「どうして奪った…っ!どうして、彼女を…っ!」
 
何度も繰り返した。
それはもう、何度も。
何度も、毎日、こうやって。
 
「どうしてぇっ!?」
 
もう、最後は言葉なのか泣き声なのかわからないくらいになっていたが、かまわず叫ぶ。
誰に問いたいのかは、自分にもわからず。
ただ、夜空に泣き叫んだ。
 
「そんなにこの世界が憎い?」
 
ハッとして声のしたほうを見れば、主が腕を組んでそこに立っていた。
 
「ねぇ、美鈴。そんなにあの子を奪ったこの世界が憎いの?」
「…お嬢様」
 
その表情は、責めるでもなく、怒るでもなく、ただ悲しそうに見えた。
 
「それとも、何も出来なかった私が憎いのかしら?」
 
そういうと、レミリアはふっと自嘲する。
 
「そんな!お嬢様を憎むだなんて!」
「私はね、何も出来なかったわ」
 
美鈴の言葉を遮るようにレミリアは言う。
 
「運命を操る程度の能力」
 
美鈴がしたように、レミリアも空の月を仰ぐ。
 
「あの子に名前を与えた時に、あの子自身の運命を全て変えてしまうべきだったのかもしれないわね。あの子が望まなくとも、強制的に」
 
そのまま優しく微笑むと、美鈴に顔を向ける。
 
「そうすれば、あの子は死ななかったわ。今も私の従者でいてくれたでしょうね」
「……」
 
美鈴は何も言えずに、俯く。

きっと主の言いたいことは、彼女を吸血鬼にしてしまえばよかったということであろう。
そうすれば、確かに彼女はきっと今も主の傍らに控えていられた。
きっと、私と共に笑っていた。
しかし、
 
「でもそれは私達が知っているあの子とは別人だったでしょうね」
「はい…」
 
彼女は、最後の最後まで首を縦に振らなかったことは知っていた。
 
『私は最後まで人間で居続けます。人間で居続けることで、証明したいのです。お嬢様への、永遠の忠誠を』
 
私達の知る『十六夜 咲夜』とは、そういう人物だった。
 
「紅 美鈴」
 
珍しく、フルネームで呼ばる。
どうしたのかと主の顔を見れば、その表情は真剣で。
 
空気が、変わった。
 
「これ以上、自分を痛めつけることはやめなさい。これは命令よ」
「痛めつけてなど!」
「その拳と、門が証人よ。まったく、門番が門を壊すなんて呆れるにも程があるわ。ちゃんと明日まで直しておきなさい」
「…申し訳ありません」
 
ふぅ、とひとつため息をこぼす主に、素直に頭をたれた。

「じゃ、私はもう休むわ。久々に夜更かしをして眠いの」
「はい、おやすみなさいませ」
 
昼間行動するレミリアにとって、夜は寝る時間である。
そんな彼女のいつもの就寝時間は、だいぶ前に過ぎていた。
あくびをしながら、レミリアは館に向かって歩き始める。
数歩行ったところで歩みを止め、振り返らぬままレミリアは言った。
 
「あの子の一番の理解者だったのは、間違いなくあなたよ。だからこそ、考えなさい。あの子が今、何を望んでいるのか。あなたには、わかるはずよ」
 
後ろを向いたままの主の顔は見えない。
だがしかし、その声は少し震えている気がした。
あくまでも、気がしただけだが。
 
「あの子を愛していたのなら、わかってあげて」
 
それだけ言うと、今度こそ立ち止まることなく館へと帰っていく。

主が完全に見えなくなってから、美鈴はゆっくりと自分の拳を見やる。
もう血は乾き、傷さえも塞がっていた。
 
ノロノロと門の修理を始める。
このくらいなら、すぐ終わるだろう。
 
愛していたのなら、か…。
 
修理をしながら、先程の主の言葉を思い出す。
 
私は、本当に今も昔も愚かだ。
気づくのが、全て遅すぎる。
 
彼女と私の持つ物差しは、全然違うことに気づけなかった。
全てにおいて、彼女と私の持つ物差しは違いすぎたのだ。
 
声にして彼女に伝えられなかった言葉は、どれだけあっただろうか?
彼女に行動で示したかったことは、何度あっただろうか?
彼女が私に示してくれた好意に、私は少しでも答えてあげられていたのであろうか?
 
その全ては、もう遅すぎた疑問。
 
もっと早く、ものさしの見方に気づいていればよかったな…。
 
美鈴は再び彼女を想い、月を仰いだ。
 
どうしようもなく、綺麗な十六夜月が、そこにはあった。
 
月明かりに照らされ、紅魔館は輝いていた。
 
そんな月明かりに照らされながら、彼女は今日も愛しい人を想う。
 
もう止まらない時を、願う。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



ある日突然、出会いはやってきた。
 
その夜、主は小さな人間を拾ってきた。
気絶していたソレを門前で唖然とする私に、ぽいっと投げてよこす。
慌てて受け止めれば、主は楽しそうに笑った。
 
「美鈴、あなたにこの子を育てなさい」
「は?」
 
一頻り笑った後に、主はただそれだけを告げた。
意味がわからず首を傾げている私になどかまわず、さっさと館に帰っていく。
 
「あ、その子の名前は十六夜 咲夜だから。よろしく」
 
その言葉を捨て台詞にして。
 
「え…ええええええぇぇぇ!?」
 
やっと言葉の意味を理解した時には、主の姿はもうそこにはなく。
 
とにかく、寝かせてあげよ…。
 
とほほ、と肩を落としながらも門番隊の詰め所に戻った。

「あれ?どうしましたか、隊長…ってどうしたんです?その人間」
「お嬢様が育てろっておいていった…」
「育てろ?人間を?」
「うん、十六夜 咲夜ちゃんだって」
 
大方、おいしそうな血だからとかそういう理由だろう。
育てろって事は、ある程度の歳になったら食事とか?
お嬢様、今度は人間牧場でも作れとか言い出さないよねー?
 
そんなことを考えながら、詰め所の仮眠室へと移動する。
 
ベッドに寝かし、やっと落ち着いたところでその子を見やる。
よく見れば、整った顔つきをした女の子。
本当、どこから拾ってきたんだか。
 
はぁぁ…
 
ため息をつくと幸せが逃げていくというが、この館に来てから幸せは逃げっぱなしな気がする。
多分気のせいじゃないはず。
 
育てろ、か。
 
小さな人間の、女の子。
私は人間は愚か自分の子供だって産んだことはないし、育てたこともない。
そんな私にこの子を育てろとは、これ如何に?
まあ、どうせお嬢様の気まぐれだろう。
 
飽きるまでは、手伝うかー。
 
はぁぁ…
 
そしてまた、幸せが逃げていった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



いつからであったろうか。
いつのまにか、としか言いようがないのだと思う。
 
気づけば主が咲夜を拾ってきてから、八年という月日が経っていた。
ついこの間見習いメイドとして働き始めたかと思えば、いつの間にか副メイド長にまで出世していた。
元から才能があったのか、彼女はぐんぐん伸びていく。
そういえば、身長も大分伸びて今ではもう私に並ぶくらいだ。
本当に、人間とは恐ろしいスピードで成長するものである。
 
そして今日、咲夜はメイド長になる。
 
たった八年。
そんな短い期間で、私の隣にまでのし上がってしまった。
 
本当に、恐ろしいものだ。
いろいろな意味で。
 
「咲夜ちゃん、おめでとうございます!」
「ありがとう、美鈴」
 
そう言って彼女は微笑む。
 
ドキッと、した。
 
気づけば、彼女はもうすっかり女性になっていた。
いつの間にか、女の子から女性へ。
本当に不思議なものである。
何も変わらぬこの紅い館で、一人だけ変わり続ける住人。
それが、十六夜 咲夜、この人だ。
 
「美鈴にやっと追いついたわね」
「…え?えぇ、追いつかれてしまいました」
 
少し開いてしまった変な間を、アハハーと笑ってごまかす。
咲夜は気にした様子もなく、私を見て微笑んでいる。
そんな彼女の顔に、私も自然と頬が緩んで。
二人で笑いあった。
 
「でもあれですね。いつまでも咲夜『ちゃん』じゃカッコつきませんよねぇ。これからは咲夜『さん』と呼ばせていただきます」
「…え?」
「だってその方が、対等っぽいでしょ?」
「そ、それもそうかもしれないわね」
「ええ。これからは同僚として、お嬢様を共に守っていきましょう。私達は、この紅魔館で最強の盾の剣なんですから」
「お嬢様は黙って守られるお方ではないけどねぇ…」
 
それもそうですねー、とお互い苦笑を交わす。
 
「さ、じゃあ早速お仕事です!今日もがんばっていきましょう、咲夜『さん』!」
「ええ、頑張りましょう。サボらないでよ、美鈴?」
「ど、努力しますぅ…」
 
ナイフをチラつかせながらにっこり笑う彼女は、この頃から既に威厳あったな…そういえば…。


そういえば、その頃からだ。
お互い忙しくて…というか正確には咲夜さんが忙しすぎて、だけど。
まあ、会える時間がかなり少なくなってしまった。

朝、食堂で会えれば一緒に食事をして話をした。
昼、会いたくなって居眠りしているフリをしたことだってあった。
…本当に寝てたことも半分くらいあるけど。
夜、大体同じくらいの時間に合わせてご飯を食べに行って。
寝る前に、ほんの少しだけどちらかの部屋でお茶の時間をもうける。
 
そんな日常が、始まった。
 
本当は、もっと会いたかった。
もっと話がしたかった。
 
気づけば、咲夜さんのことを考えていて。
姿を見つければ、目で追っていた。
 
この気持ちに名前をつけるならば、なんという?



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



そんな中、彼女が倒れたのは、あまりに突然だった。
門前に何時も通りに立ち、何時も通りに昼寝をしていた時の事。
 
いつもと変わらず、居眠りに気づいた咲夜さんが私を起こしに来て。
その後にちょっとお話して、夜には一緒にご飯を食べて。
ちょうどお嬢様が寝た頃に咲夜さんの部屋に行って、一緒にお茶をして。
 
おやすみ、また明日。
 
そうやって、また次の日が来る。
 
あの日だって、そう信じていた。
 
なんの疑いも持たなかった。 
 
バンっ!
 
「美鈴さん!」
 
盛大な音と共に勢いよくやってきた子悪魔から知らせを受けた時には、全然信じられなくて。
 
だって、朝は笑って話をした。
一緒にご飯を食べて、今日も一日頑張りましょうって笑っていた。
 
ただただ、放心している私を、小悪魔は無理矢理気味に連れて行ってくれたことを覚えている。
 
駆けつけた部屋のベッドには、彼女が横たわっていた。
 
「咲夜さん!?」
「美鈴、ちょっと静かにしなさい」
 
慌ててベッドサイドに駆け寄ろうとして、主に静止を受ける。
 
「でも咲夜さんが!」
「ああもう!ちょっとは落ち着きなさい!今パチェが診てくれてるでしょ!?」
「二人とも静かにして!うるさいわ!」
 
パチュリーのその声で、二人はしゅんとなって黙り込む。
その後は黙ってその診断結果を待った。
 
数分後、パチュリーが二人の方を振り向くと、首を振った。
 
「パチュリー様!?それどういう意味なんですか!?」
「ちょっと落ち着きなさい、中国」
「中国じゃありません!」
「案外落ち着いてはいる様ね、安心したわ」
 
ふぅ、とひとつ息を吐くと、パチュリーは話し出す。
 
「簡潔に言うわよ。美鈴、今すぐ永遠亭まで行ってあの薬師をつれて来て」
「ちょっとパチェ!どういうことなのよ!?」
「簡単に言えば、私では治せないわ。後の望みはあの薬師だけ。ただ、それだけの話よ」
「そんな…どうして!?ねぇ、どうして咲夜は倒れたの!?」
「レミィ、落ち着いて。それは追って説明するわ。とにかく美鈴、お願い。超特急で頼むわ」
「…わかりました」
 
頭は大分冷えてきていた。
今、咲夜さんを救う方法はただひとつ。
薬師を連れて来る、それだけだ。
 
「咲夜さん、待っててくだい!すぐ、帰りますから!」
 
それだけを言い残し、美鈴は全速力で飛んだ。
何も考えなかった。
考えたくも、なかった。

永遠亭に着くといつもの半分も時間がかかっていなかった。
きっとあの黒白には負けないスピードだったはずだ。
 
「すいません!永琳さんはいらっしゃいますか!?すいません!永琳さんは!」
「何よ、騒々しい。私になにか用なのかしら?」
 
案外あっさりと出てきてくれたのには、本当に助かった。
 
「あら、紅いところの門番じゃないの。なに?急になにか入用なのかしら?」
 
とにかく、この人を連れて帰らねば。
一刻でも、いや、一秒でも早く。
 
美鈴は唐突に地面に這い蹲り、額をこすり付けるようにして言う。
 
「お願いします。一緒に紅魔館まで来てください。咲夜さんが…咲夜さんが…っ!」
「…うどんげ!」
 
その様子を見た永琳が、鈴仙を呼ぶと、すぐに彼女は姿を現した。
 
「はいはいー!お客さんはどなただったんですかー…ってなんですかこの状況?」
「ちょっと笑ってられる状況ではないみたいね。往診用のかばんを今すぐ取ってきて。三十秒で」
「え?えぇ!?い、今お持ちします!」
 
ばたばたと優曇華が駆けて行く。
 
「門番さん、頭を上げなさい。状況大体わかったわ。とにかく急ぎ。しかも患者はあの十六夜 咲夜なのね?」
「は、はい!お願いします!咲夜さんを!咲夜さんをっ!」
「約束はできないわ。私は医者ではなく、薬師だしね。でも最悪…」
「師匠!かばんお持ちしました!」
 
鈴仙が慌ててかばんを持ってくる。
三十秒は過ぎていたかもしれないが、まあ、上出来だ。
 
「ありがとう、うどんげ。ちょっと出てくるわ。門番さん、早く案内を」
「は、はい」
「お気をつけて!」
 
慌てて美鈴は元来た道を全速力で飛ぶ。
そのスピードについて来ている永琳は、さすがと言うべきなのか。

紅魔館へ到着すると、まっすぐに咲夜の部屋へと向かう。

『最悪のことが起きても、あなたは取り乱してはだめよ』

道中、永琳はそんなことを美鈴に囁いた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



すぐに永琳の診察が始まる。
今、部屋には紅魔館の住人達三人と、門番隊の隊長である美鈴しかいない。
 
「ねぇ、お姉様?咲夜はどうしたの?」
「フラン…」
 
フランドールはいまだ、何が起きているかわかっていないようだ。
レミリアはただ、妹を優しく抱きしめる。
 
正直、美鈴にだってわかってはいなかった。
わかっていることは、ただひとつ。
 
咲夜が、今非常に危ない状態であるということだけ。
 
永琳がゆっくりと、皆のほうに振り返る。
 
皆が息を呑んだ。
 
「…残念だけど。意識は戻ったわ。少しなら、話が出来るはずだから…」
 
そう言って、ゆっくりと下がる。
 
「そんなっ!そんなの…っ!」
 
レミリアはたまらずその場に座り込む。
 
「お姉様…?残念って、どういうこと…?」
「妹様、こちらに。咲夜と、私と、三人で少しお話しましょう」
「…?うん、でもお姉様が…」
「大丈夫ですよ、レミィは。少し、一人にしてあげましょう?」
「うん…。わかった」
 
パチュリーとフランドールは咲夜のベッドサイドへと移動して行く。

私はといえば、ただ、呆然としていた。
  
言葉が、理解できない。
理解などしたくない。
 
ザンネンダケド?
 
ねぇ、どういう意味?
 
どうして、そんなことを言うのだろう。
 
ドウシテ、ソンナコトヲ…
 
『最悪のことが起きても、あなたは取り乱してはだめよ』
 
永琳のあの言葉が、ふと頭に浮かんだ。

『取り乱しては、だめよ』
 
 
「…いりん!めいりん!美鈴!!」
 
ハッとして顔を上げれば、パチュリーがそこに立っていた。
 
「美鈴、戻ってきたかしら?」
「あ…」
「ほら、早く咲夜の側に行ってあげて」
「え…でも…」
「私は、もう済んだわ」
 
そう言ってパチュリーはちらりとベッドサイドを見やる。
そこには幼い紅い姉妹がいる。
 
「お願い、美鈴。早く行ってあげて…」
「パチュリー様…」
 
パチュリーは、涙していた。
一番冷静で、一番静かに状況を把握していた彼女でさえも、もう耐え切れなかったのだ。
 
静かに、ゆっくりと咲夜のいるほうへ美鈴は歩みだす。
 

おかしいよね?
 
おかしいよ。
 
だって、こんなこと現実ではおきちゃいけないことなはずだもの。
 
『美鈴』
 
そうやって、彼女は今朝まで私を呼んでくれていた。
 
『美鈴』
 
そうやって彼女は、今朝まで私に微笑みかけてくれた。
 
『美鈴』
 
そうやって彼女は、出会ってから、ずっと。
 
『美鈴』
 
そうやって、何度も、私を。
 
『美鈴』

何度も、その声で、私を。


「ねぇ、咲夜?咲夜はもっと私と遊んでくれるよね?元気になるよね?ね?ねぇ…?」
「すいません、フランドール様…。咲夜は、もう一緒に遊べないんです」
「どうして!?ねぇ、どうして!?だって咲夜とはまだちょっとしか一緒に遊べてないよ!」
「フランドール様…」
「どうして皆嘘をつくの!?だって咲夜はここにいるじゃない!体、あったかいよ?血も出てないよ?話せてるよ?咲夜が
動かなくなるなんて、嘘だよ!そんなの、嘘だ!」
 
フランドールは、泣き叫ぶ。
嘘だ、嘘だと何度も言いながら。
 
そうだ、嘘なはずだ。
 
こんなの、出鱈目だ。
 
「…フランドール様、お聞きください。これが、咲夜からの最後のお願いでございます」
 
咲夜は、静かに言う。
 
「最後なんて、言わないでよぅ!」
「すいません。でも、私はもう、本当にだめみたいなんです」
「さくやぁ…」
「フランドール様、どうかお泣きにならないでください…。咲夜はフランドール様の笑顔が大好きでした。その笑顔で、送ってはいただけませんか?」
「そんなの、無理だよぉ…」
「そうですか、このお願いは駄目ですか…。なら、仕方ありませんね。もうひとつの方にいたします」
「もうひとつ?」
「フランドール様は、今なぜ私のためにお泣きになってくださるのですか?」
「そんなのっ!そんなの咲夜が死んじゃうのが嫌だからだよぉ!」
「ありがとうございます…。ですが、フランドール様。私の死から、学んでください。
そして、能力を使う時に、今の気持ちを思い出してください。そうすればきっと、その力も制御できるはずですよ?」
「そんなの…」
「お願いします、フランドール様」
「…わかった。約束する」
「…ありがとうございます。これで咲夜も、安心して逝けます」
 
にっこりとフランドールに微笑みかけると、震える手で咲夜はフランドールを抱きしめる。
静かに、ゆっくりと。
数秒そうした後、咲夜は主のほうに視線を送る。
ゆっくりとフランドールは下がり、レミリアが一歩前に出てくる。

 
「あなた、あり得ないわよ。いくらなんでも、早すぎるわ…」
「申し訳ございません、お嬢様」
 
開口一番に、レミリアはそう言う。
 
「ねぇ、咲夜。今からでも遅くないわ。私が運命を変えてあげる。だから、その血を私に捧げなさい」
「申し訳ございません、お嬢様。私は最後まで人間で居続けます。人間で居続けることで、証明したいのです。お嬢様への、永遠の忠誠を」
「その台詞は、もう聞き飽きたわ」
「そうでしたか?」
「そうよ。まったく」
 
二人はくすくすと笑いあう。
そして、咲夜は問う。
 
「お嬢様、ひとつよろしいでしょうか?」
「何?フランのような話ならご遠慮願うわよ」
「それもいいのですが、これはただの問いですから」
「ふぅん…。いいわ、聞いてあげる。言ってみなさい」
「ありがとうございます」
 
そういうと、咲夜はひとつ軽く礼をする。
 
「私を、最後までお嬢様のお側に置いてくださいますでしょうか?」
 
ふんっとひとつ鼻を鳴らすと、レミリアは腕を組み咲夜から顔を背ける。
 
「どうしようかしらね?こんなにも主を敬わない従者、最後まで面倒見てやる義理があるかしら。
従者の癖に、主を一番と思わないし。忠誠を誓っているくせに、やけに反抗的な態度をとる時もあるし」

でもね、とレミリアは続ける。
 
「確かに、とても楽しい時間を過ごせたのよ。悔しいことに、ね。永遠に続いていくと錯覚してしまうほどに、楽しかったの。だから、」
 
咲夜に向き直ると、笑顔で主は言う。
 
「永遠の忠誠を誓うのならば、全力でそれに答えるのが、主よ」
「…ありがとうございます、お嬢様」
 
あーあ、と、レミリアはフランを連れベッドサイドから下がる。
 
「もう今後一切、人間の従者は雇わないわ。もう、あなた一人で十分だもの」
「あら。人間も、いいものですよ?」
 
そう言ってにっこりと笑う咲夜のその笑みは、主の前では最後まで完全瀟洒と呼ばれたメイド長の笑顔だった。
 
「私はもうご遠慮願いたいわ。ま、大丈夫。ウチにはまだ、私に忠誠を誓う妖怪の従者がいるからね。ほれ、さっさと行って来い!」
「え?」
 
その言葉と同時に、レミリアは未だ呆然と立っている美鈴の背を押す。

ドスっ!
 
美鈴はその不意打ちに、思い切りつんのめり、ベッドの横で盛大にこけた。

あいててて、と立ち上がる。
なにも、あんなに強く押さなくとも…。
 
「まったく…。あなたは最後まで決まらないわねぇ…」
 
上の方からクスクスと笑う声と一緒に、そんな声が降ってきた。
 
最後、という言葉が、胸に刺さる。

最後だなんて、お願いだから言わないで欲しい。
 
「ほら…早く立って。あなたの顔が見たいわ、美鈴」
「……」
 
その言葉に従い、黙って立ち上がる。
 
いつの間に出て行ったのか、主達と薬師の姿はもう既にそこにはなく。
 
二人だけの、時が流れる。
 
「ねぇ、美鈴。お願いがあるのよ」
「…なんですか?」
 
私に今出来ることは、きっと平然を装う彼女にあわせ、取り乱さぬこと。
きっと、それだけしか、もうしてあげられない。
 


「昔してくれたように、私を抱きしめて欲しいわ」


 
そう言って、彼女は今日初めての涙を流す。
表情は笑っているのに、頬を涙が濡らしていく。
 
泣かないで、欲しい。
 
ただ、それだけを思った。
 
そう思えば、勝手に身体は動いて。
彼女を、抱きしめる。
ただ、優しく。包み込むように。
 
彼女を包む香りは、いつもと変わらず。
彼女のぬくもりも、なにも変わらず。
 
「美鈴」
 
そう呼ぶ声だって、何も変わらぬ、愛しい声で。

これが最後の時だなんて、信じられない。




「ねぇ、美鈴」
「なんですか?」
「私、ここに来てよかった。お嬢様方に仕えられて、紅魔館の優しい人たちに育てられて」
「そうですか。その言葉を聞いたらみんな喜びますよー」
 
「ねぇ、美鈴」
「なんですか?」
「私、あなたに出会えて、よかったわ」
「私もですよ、咲夜さん」
 
「ねぇ、美鈴」
「なんですか?」
「皆を、お願いね。私の、大好きな、人達だから」
「もちろんです」
 
「ねぇ、めーりん」
「なんですか?」
「今ね、とっても苦しいの。気を抜いたら、意識を失っちゃいそうなくらい」
「もう少し、頑張ってください」
 
「ねぇ、めーりん」
「なんですか?」
「私、まだみんなの側にいたい。あなたのそばに、いたい」
「いてくださいよ。もっと、ずっと」
 
「ねぇ、めぇりん」
「なん、ですか?」
「わたし、まだしにたくなかったわ」
「…っ!」 
 

 
ただ、強く、抱きしめる。
もう、抱きしめ返してくれる力を感じなくとも。
あなたがどこにも行かないようにと願って、ただ、強く。
 
「私は咲夜さんに、生きていて欲しいですよ」
 
涙は、抑えられなかった。
言葉も、抑え切れなかった。
 
「ねぇ、めぇ…ん」
「なん、ですかぁ?」
「いままで…ありがとぅ…いろいろと、ごめんなさい…」
「なんで、咲夜さんがあやまるんですか?」
 
ねぇ、もっと呼んで欲しいの。
 
もっと、笑って欲しいの。
 
あなたも笑って、私も笑って。
 
そんな時間が、いつまでも続くと思っていたの。
 
「さくや…さん…?」
 
どうして?
ねぇ、どうして?
 
「…っう!さくやさん!」
 
私がやっとつけたこの心の名前は、もう、あなたには届かない。
 
「さくやさぁぁぁんッッッ!」
 
いくら叫んでも、もう、届かない。
 
『愛』と名づけた、この心の名前は、あなたの耳に、もう。
  
 
 
次に、呼ぶ声はいつまで待っても、なかった。
 
ごめんなさい――その言葉が、彼女の最後だった。





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