抱きしめられるだけの話
とくんとくんと、鼓動が聞こえる。
──咲夜さん
その中に混じる愛しいあなたの声に、くんと胸が締め付けられて。
「うん?」
ちょっと首をかしげてあなたを見上げたら、ぎゅっとぎゅっと、強く抱きしめられて。
──咲夜さん
そうやって、あなたはまた私を呼ぶ。
「もう、なによ?」
それがあんまりにも可愛くて、思わず、そんな言葉に笑いが混じる。
そうしたら、またぎゅっと抱きしめられた腕に力が入った。
ちょっと、苦しい。
──咲夜さん
また、名を呼ばれる。
本当は、わかっている。
あなたがこうやって、私の名を何度も繰り返す理由を。
好きだと言葉で言われるよりも、ずっとずっとそれは心に染み込んで。
大好きだと、言葉で言われるよりも、ずっとずっとそれは心の深くまで入り込んで。
ぎゅっとぎゅっと、心が締め付けられる。
好きなの。大好きなの。
お互い、この想いを言葉にできなくとも。
どうして、私達は違う種に生まれてきたのだろうか?
私もあなたと同じなら、こんなにあなたを苦しめなくてもすんだはずなのに。
ごめん、ね……?
そんな想いをこめて、きゅっと彼女の腕を掴んだ。
──咲夜さん
どうしようもなく温かな、あなたの腕の中。
こんなにも近くに、ふたりの心は在るのに。
大丈夫。こうしていれるだけで、私は、幸せ。
こうやって、彼女の腕の中に体を預ける事ができるのなら、それだけでいい。
「……美鈴」
あなたがこうやって、抱きしめながら私の名を呼んでくれるだけで、いい。
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