あなたに伝えたいだけの話達




※文学祭では未発表のものも含まれています。
※四つの小話でひとつになっております。

上記の事にご了承頂ける方はどうぞ!












『境界線』



「なあ、アリス。好きだぜ」
「ええ、私も好きよ、魔理沙」



聞き慣れたそんな言葉。
それなのに、胸は高鳴って。



私が好きだというから、彼女はただ答えてくれているだけなのだろう。
わかっているのに、本当に好きだと言われているような感覚に陥ってしまう私は、なんてバカなのだろうか。



友達でいた期間が、長すぎて。
一緒にいた時間が、長すぎて。



『好き』の言葉が、本物になってくれない。



いつだって、本当は真剣に言いたいのに。



怖くって、怖くって。

あなたとのこの関係を、壊すのが怖くて仕方なくて。




どうして、簡単に『好き』だなんて言葉を使ってしまったのだろうか。



使ってしまわなければ、きっと、こんなに……。



「魔理沙のそういうとこ、好きよ?」



そう言って笑いかけてくれる彼女に、くんと胸が締め付けられる。



なあ、その言葉に。

私は期待をしていいんだろうか?本気でそうとってもいいんだろうか?



「ああ、私もアリスが好きだぜ」



そして今日も、私は目の前にある境界線を越えられない。










********************










『想いを乗せて』




朝起きて、ふとアリスに会いたくなった。

そんな風に思ったら、もう止まれなくて。



頭の中が、心の中が、アリスの事だけで満たされていく。



『好き』



その一言が、どうしても伝えたくて。
今日こそ、伝えたくて。



箒を引っつかんで、家を飛び出した。



どう言おう。
どう、伝えよう。



そんな事を考えながら、空を駆ける。



冷たい風が、頬を撫ぜる。
冷たい空気が、体を冷やす。



でも、心だけは熱くって。



アリス、好きだ。
こんな風に、シンプルに伝えようか。

ずっと、私と一緒にいて欲しい。好きだ。
そんな風に、一言付け加えようか。



沢山の言葉たちを頭に浮かべて、あなたに想いを馳せて。



ただひとつ、決めているのは。


今日こそは、あなたに本気で『スキ』ぶつけよう。



そう決めて、玄関をノックしたのに。





「あら、おはよう魔理沙」





迎え入れてくれた君の笑顔を見て、また。





「ああ、おはよう。今日も来てやったぜ!」





また、私は、言えなくなる。



大きなため息をひとつ、吐いた。



「魔理沙?どうしたの?」
「いや、なんでもないんだ」



心配してくれる彼女に、ニカッと笑ってそんな言葉を返す。



今日もまた、境界線は越えられない。










********************










『言葉遊び』



「なあ、アリス」



そんな言葉から、また私達の言葉遊びは始まる。



「アリスの作ったこのお菓子、好きだぜ」
「あら、ありがと。私も魔理沙がたまに作るお菓子、好きよ」



そんな会話をしながら、私達は一緒にお茶をして。



「アリスがそうやって人形作ってるの見るの、好きだぜ」
「あら、ありがと。私も魔理沙が研究してる姿を見るの、好きよ」



そんな事言いあいながら、一緒に研究して。



「アリスの作るごはん、大好きだぜ」
「あら、ありがと。私も魔理沙の作るごはん、好きよ」



そんな事を言いながら、一緒に食事を摂る。





好き。スキ。すき。





いっぱい言っても、本当の『好き』は伝わらなくて。





ふと、横に座るアリスの横顔を眺める。



その顔は、綺麗で、可愛くて。




「なあ、アリス」



そんな合図で、アリスはこちらに振り向いて。



なあに?と、首をかしげて微笑むその顔に、思わず。





「好きだぜ」





あ、と気づいた時にはもうすでに。

ただの本音が、ぽろりと零れていた。



「……ええ、私も好きよ」



そう、アリスが答えて。





刹那、私達の顔は茹蛸みたいに赤く染まった。



言葉遊びはもうおしまい。



私はやっと、境界線の内側へと一歩を踏み出した。



彼女のスキは、どんなスキ?










********************












『すき、スキ、好き』




ずっとずっと、言えなかった『好き』の言葉。

ずっとずっと、言えなかったその言葉は、思いがけず零れた言葉で。



真っ赤に染まったあなたの顔が、どうしようもなく嬉しい。
真っ赤に染まった自分の顔が、どうしようもなく熱い。



「い、今までずっと友達としてって言ってたじゃないか!」
「ま、魔理沙だってずっと本気で言ってくれたことなかったでしょ?!」



そんなことを言いあって、睨み合って。

しばらくそうしてるうちに、なにか可笑しくなって。



二人同時に、吹き出した。



涙が出るほど可笑しくて。
涙が出るほど、嬉しくて。



ああ、もう。

なんて無駄な考えを巡らしていたのだろうか。



言ってしまえば、こんなにも簡単な事だったのに。



時間を無駄になんて、もう使えない。



「なあ、アリス。スキの反対、知ってるか?」



え?と首をかしげるアリスに、にやりとほくそ笑む。



今度の答えは、簡単。



「スキの反対は──」



そんな言葉と同時に、ズイっと顔を近づけて。

油断しきった隙だらけのアリスの唇を、奪う。



「──キス、だろ?」



してやったりとニカリと笑えば、彼女はあっけにとられた様に放心していた。



これから先、いくつもの境界線が私達には待っているのだろう。


その度に、いくつもいくつも、それを越えて。



きっといつか、あなたに伝えよう。



私はあなたと一緒にいられることが幸せなんだ、って。






。゚+..Happy End ゚+.゚



inserted by FC2 system