あなたに伝えたいだけの話達
※文学祭では未発表のものも含まれています。
※四つの小話でひとつになっております。
上記の事にご了承頂ける方はどうぞ!
『境界線』
「なあ、アリス。好きだぜ」
「ええ、私も好きよ、魔理沙」
聞き慣れたそんな言葉。
それなのに、胸は高鳴って。
私が好きだというから、彼女はただ答えてくれているだけなのだろう。
わかっているのに、本当に好きだと言われているような感覚に陥ってしまう私は、なんてバカなのだろうか。
友達でいた期間が、長すぎて。
一緒にいた時間が、長すぎて。
『好き』の言葉が、本物になってくれない。
いつだって、本当は真剣に言いたいのに。
怖くって、怖くって。
あなたとのこの関係を、壊すのが怖くて仕方なくて。
どうして、簡単に『好き』だなんて言葉を使ってしまったのだろうか。
使ってしまわなければ、きっと、こんなに……。
「魔理沙のそういうとこ、好きよ?」
そう言って笑いかけてくれる彼女に、くんと胸が締め付けられる。
なあ、その言葉に。
私は期待をしていいんだろうか?本気でそうとってもいいんだろうか?
「ああ、私もアリスが好きだぜ」
そして今日も、私は目の前にある境界線を越えられない。
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『想いを乗せて』
朝起きて、ふとアリスに会いたくなった。
そんな風に思ったら、もう止まれなくて。
頭の中が、心の中が、アリスの事だけで満たされていく。
『好き』
その一言が、どうしても伝えたくて。
今日こそ、伝えたくて。
箒を引っつかんで、家を飛び出した。
どう言おう。
どう、伝えよう。
そんな事を考えながら、空を駆ける。
冷たい風が、頬を撫ぜる。
冷たい空気が、体を冷やす。
でも、心だけは熱くって。
アリス、好きだ。
こんな風に、シンプルに伝えようか。
ずっと、私と一緒にいて欲しい。好きだ。
そんな風に、一言付け加えようか。
沢山の言葉たちを頭に浮かべて、あなたに想いを馳せて。
ただひとつ、決めているのは。
今日こそは、あなたに本気で『スキ』ぶつけよう。
そう決めて、玄関をノックしたのに。
「あら、おはよう魔理沙」
迎え入れてくれた君の笑顔を見て、また。
「ああ、おはよう。今日も来てやったぜ!」
また、私は、言えなくなる。
大きなため息をひとつ、吐いた。
「魔理沙?どうしたの?」
「いや、なんでもないんだ」
心配してくれる彼女に、ニカッと笑ってそんな言葉を返す。
今日もまた、境界線は越えられない。
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『言葉遊び』
「なあ、アリス」
そんな言葉から、また私達の言葉遊びは始まる。
「アリスの作ったこのお菓子、好きだぜ」
「あら、ありがと。私も魔理沙がたまに作るお菓子、好きよ」
そんな会話をしながら、私達は一緒にお茶をして。
「アリスがそうやって人形作ってるの見るの、好きだぜ」
「あら、ありがと。私も魔理沙が研究してる姿を見るの、好きよ」
そんな事言いあいながら、一緒に研究して。
「アリスの作るごはん、大好きだぜ」
「あら、ありがと。私も魔理沙の作るごはん、好きよ」
そんな事を言いながら、一緒に食事を摂る。
好き。スキ。すき。
いっぱい言っても、本当の『好き』は伝わらなくて。
ふと、横に座るアリスの横顔を眺める。
その顔は、綺麗で、可愛くて。
「なあ、アリス」
そんな合図で、アリスはこちらに振り向いて。
なあに?と、首をかしげて微笑むその顔に、思わず。
「好きだぜ」
あ、と気づいた時にはもうすでに。
ただの本音が、ぽろりと零れていた。
「……ええ、私も好きよ」
そう、アリスが答えて。
刹那、私達の顔は茹蛸みたいに赤く染まった。
言葉遊びはもうおしまい。
私はやっと、境界線の内側へと一歩を踏み出した。
彼女のスキは、どんなスキ?
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『すき、スキ、好き』
ずっとずっと、言えなかった『好き』の言葉。
ずっとずっと、言えなかったその言葉は、思いがけず零れた言葉で。
真っ赤に染まったあなたの顔が、どうしようもなく嬉しい。
真っ赤に染まった自分の顔が、どうしようもなく熱い。
「い、今までずっと友達としてって言ってたじゃないか!」
「ま、魔理沙だってずっと本気で言ってくれたことなかったでしょ?!」
そんなことを言いあって、睨み合って。
しばらくそうしてるうちに、なにか可笑しくなって。
二人同時に、吹き出した。
涙が出るほど可笑しくて。
涙が出るほど、嬉しくて。
ああ、もう。
なんて無駄な考えを巡らしていたのだろうか。
言ってしまえば、こんなにも簡単な事だったのに。
時間を無駄になんて、もう使えない。
「なあ、アリス。スキの反対、知ってるか?」
え?と首をかしげるアリスに、にやりとほくそ笑む。
今度の答えは、簡単。
「スキの反対は──」
そんな言葉と同時に、ズイっと顔を近づけて。
油断しきった隙だらけのアリスの唇を、奪う。
「──キス、だろ?」
してやったりとニカリと笑えば、彼女はあっけにとられた様に放心していた。
これから先、いくつもの境界線が私達には待っているのだろう。
その度に、いくつもいくつも、それを越えて。
きっといつか、あなたに伝えよう。
私はあなたと一緒にいられることが幸せなんだ、って。
。゚+..Happy End ゚+.゚
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