望むはそれだけ





「なあ、アリス」
「なに?」
「……なんでも無いぜ」

少し拗ねている様に、彼女はそう言う。

そんな彼女の態度を不思議に思い、思わず首をかしげる。

彼女は彼女で自分が読みたい本を読んでいるし、私は私で次の研究に必要な本を読んでいただけ。

ただそれだけなのに、拗ねさせる要素なんてあったかしら?

再び黙って本を読み始めてしまった彼女にわざわざ声をかけるものどうかと思ったので、そのまま自分もまた本へと視線を移す。



「なぁ、アリス」
「なに?」
「アリス」
「だから何よ」
「アーリースー」
「だからさっきから何なのよ?」



さすがにイラついてきて、思わず口調が荒くなる。
さっきから人の名前を連呼するだけ。意味がわからない。

まあ、嫌じゃないけど。



「……アリス」



ちょっとしょぼんとした顔でまた私の名を彼女は呼ぶ。

いや、だから何なのよ。
そんな顔されたって、本当に訳がわからない。

そのままジーッと二人でしばらくにらめっこ。

読んでいた本などそっちのけで、一生懸命魔理沙の言いたい事を考えて見た。



本を読んでる最中になにかされた?
いや、それなら多分気づくはず。そんなに集中して無かったし。

時間がもう遅い?
いや、それなら口で言った方が早い。魔理沙自身ここから立ち去ろうとする様子も無いし。

……まさかキスしたいとかじゃないわよね?
いや、それならとっくに痺れを切らした魔理沙が仕掛けてくるはずだ。強引に。



わからない。本当にわからない。
この子、何がしたいわけ?



「……〜〜〜っ!アリス!!!」
「いや、だからさっきから──」



……あ。そっか。



「──なんなのよ、魔理沙」



そう答えを出せば、彼女の顔には満面の笑顔が咲いた。



全く、こっちの気も知らないで。



──魔理沙魔理沙うるさいなぁ。



あの異変の夜、そう言ったのは誰だと思ってるのよ。



「なあ、アリス」
「なによ、魔理沙」
「アリス」
「もういいでしょ?私本が読みたいのよ、魔理沙」
「あーりーすー」
「……魔理沙、いい加減にして?」

そう言ってくすくす二人は笑い合う。




「ちょっとそこのバカップル。いちゃつくならここ以外でやりなさい」

そんな図書館の主の声は、勿論二人には届かない。





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