さくらさくら








願わくば 花の下にて 春死なむ

        その如月の望月のころ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
いつだって変わらずそこにあるものがありますか?
 
私にはあります。
 
それは、自分自身。
 
周りに住む者達が変わっていっても、私は此処に在りました。
 
誰一人周りにいなくなってしまっても、私は此処に在りました。
 
私は此処に在り続けます。
今までも。
きっと、これからも。
 
 
 
ある日突然、彼女は現れました。
 
「こんにちは。あなたの噂を聞いてきたの」
 
そう言って、彼女は私に笑いかけてきます。
とても、笑顔の似合う少女でした。
 
「ねぇ、友達になりましょう?」
 
そんなことを、言うのです。
 
友達とはなんですか?
私にはわかりません。
 
幾度か、私を殺そうとした者はいました。
あるものは刃物を使い。
あるものは焼き殺そうとし。
あるものは毒を盛りました。
 
そのような奴らと、あなたは何かが違う気がします。
 
私は興味が湧きました。
 
私と同じ力を持った、彼女に。
 
それから私は彼女と一緒に過ごすようになりました。
 
彼女は私の隣で本を読みふけったり、時には昼寝もしていました。
 
私は食事することも忘れ、彼女に興味を向けていました。
 
何故彼女は此処にあろうとするのか。
何故彼女は私と日々を過ごすのか。
 
とても興味深かったのです。
 
其れは、とても奇妙で、幸せな日々。
 
独りでない生活は久しぶりで、何か楽しく。
独りでない生活は、また不安も煽りました。
 
いつかまた、孤独な日々が来るのではないかと。
 
そんな不安を余所に、彼女は笑います。
 
私の不安を拭うように。
私の不安を打ち消すためのように。
 
何時も優しく。
時に悲しそうに。
 
 
 
 
 
そして、その日はやってきました。
 
 
 
 
 
それはいつもと変わりない日の出来事。
いつもなら彼女がそろそろ帰る時間の頃合。
それなのに、その日は違いました。
 
「あなたは、私とずっと一緒」
 
そう言って静かに。
本当に静かに彼女は微笑みます。
その表情からは、様々な表情が読み取れました。
 
悲しみ、苦しみ、慈しみ、喜び……
それらとは違う、何かも含んで。
 
 
 
 
 
「さあ、一緒に逝きましょう?」
 
 
 
 
 
そして私はやっと彼女を理解しました。
 
 
 
 
 
ああ、だから彼女は私と友になったのか。
 
 
 
 
 
彼女の美しい舞を。
彼女の美しい歌声を聞きながら。
私は静かに微笑みました。
 
 
 
 
 
私の唯一無二の存在に。 
 
 
 
 
 
――さあ、一緒に逝きましょう?



そして彼女は私に命を捧げ、



――私とあなたがただ静かに在る事が出来る場所へ
 
 
 
私は彼女へ私を捧げた。
 
 
 
――今はただ、おやすみなさい
 
 
 
願わくば、離れることが無きことを。
 
 
 
――妖怪桜…いえ、西行妖
 
 
 
 
 
これからは、ずっとあなたと共に……。
 
 
 
 
 
咎重き 桜の花の黄泉の国

    生きては見えず 死しても見れず




◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 
「幽々子様ー、それ私のお団子ですぅ……」
「あら?私とこの子の分じゃなかったの?」
「この子って……西行妖のですか?」
「そうよ。だから私が貰ったの」
「意味がわかりませんよぉ……」

うう、と半ベソをかいている妖夢に、微笑を返して。
お団子ぐらいで泣くなんて、やっぱりまだまだ半人前だ。

ふと、西行妖を見上げる。
今年もやはり、この桜は咲く事はないのか。咲いた事はないのか。

「……そうよ、そうだわ!」
「え?ゆ、幽々子様!?どちらへぇぇ!?」

思いたったら吉日。
そんなわけで蔵へと急ぐ。

きっと、あそこになら記録があるはず。
西行妖についての、記録があるはず……!

「ゆ、幽々子様ー!」
「ほらほら、おいてくわよ〜?」



終わらない冬の異変が起こるのは、もう少し、先のお話……。





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