12時


そっと繋がる手。重なる視線。時折混ざり合う、吐息。

その全てが私は好き。
そしてなにより、こうしていられる今がどうしようもなく好きだった。

真っ暗の部屋。静かな静かな、夜の寝室。
魔理沙が泊まりに来てくれた日、私達はベッドの中で寄り添うようにして眠る。
情事が無いわけではないけれど、今日はそういう気分ではなくて。

ただこうやって寝る、ただそれだけのこの時が。
ただ一緒にいるこの時間が、どうしようもなく愛おしい。

「なあ、今何時だろうな?」

そんな風にあなたが問うから、壁にかけてある時計を見る。

「そろそろ、12時みたいね」

特に明日は早いわけでもないから、そんなに時間なんて気にしなくてもいいのに。

そんな事を思うけれど、まあ彼女なりに何か考えがあるのだろう。
深く考えるわけでもなくそう思い、きゅっと魔理沙の手を握る力を強める。

「ねぇ、魔理沙……もう一回……」

つーっと魔理沙の唇をなぞれば、その意味を魔理沙は理解してくれて。
おねだりした大好きな魔理沙の唇が、私の顔中に降り注ぐ。
そこまで求めたつもりは無かったのだけれども、予想外の事に嬉しくなってしまう。

「もう……魔理沙ってばくすぐったい……」
「そうか?ごめんごめん……でも、つい」

二人のくすくすという笑い声が、静かな部屋で重なり合う。
こつんとぶつかりあっている額の感覚が、心地よい。
鼻先にかかる魔理沙の吐息が、キスをされた時よりもずっとずっとくすぐったかった。

「……もう、12時なのか」

ぴたりと笑うのを止めた魔理沙は、そんな事をぽつりと呟く。
少しばかりの悲しさや寂しさを含んだその声色は、私の胸をきゅうっと締め付けた。

「アリス」

私の名を呼ぶ彼女の瞳は、心なしかゆらゆらとどこか揺れているように見えて。

そっと、握っていない方の手を伸ばして彼女の頬を撫でる。
撫でた手の指先に伝わるのは、心地よい温度と柔らかい頬の感触。

大好きな、彼女のほっぺた。

ほんの数瞬考えて、そっとその手を頬から離した。
.
大好きな彼女のほっぺたが、私の指先から溢れだす寂しさの色に染まってしまう気がしたから、だ。

「……12時。昨日の終わりで今日の始まり」

私の様子を揺れる瞳でじっと見つめていた魔理沙が、そんな事を言った。
少しばかり驚いて、思わず瞬きを忘れて。

「こんな幸せな時間なのに、どうして時間はここで止まってくれないんだろうな」

そう、瞬きを忘れていたからなんだ。
ポロリと一つ、私の瞳から涙がこぼれたのは。

決して彼女の言葉に涙したのでは、ない。





わかっていた事だ。

『お……?アリス、縮んだ?』

昼間、そんな事を言いだした彼女。


何気ないその一言。
心臓を鷲掴みされた、そんな気分だった。


時が進むにつれ、成長していく彼女の身体。
時が進んでも、、なにも変わらない私。

『身長を追い越した程度で自慢げになるなんて……やっぱり魔理沙はまだまだ子供ね』

それでも魔理沙を子供扱いするのは、私がその現実とまだ目を合わせたくないから。
もっとも、その一言にムキになる彼女がまだまだ子供である事は変わり無いけれども。





目の前で微笑む魔理沙は、全部全部私の考えなんてお見通しなんだろうか?





そっと、魔理沙の手が私の頬を伝っている一粒の涙を拭ってくれた。

「……ちょっと、しょっぱい。でも、好きだな」

拭った指先をちろりと一舐めして、彼女はにこりと笑ったから。

「……変態」

私もそう言ってにこりと笑った。




ねぇ、魔理沙。




「時間は、確かに止まらないわよね」

もう一度そっと、彼女の頬に手を添えてみる。
彼女の頬が私の指先から溢れる寂しさで汚れる事などありはしない。

だってきっと、あなたは私の本当の悲しみや寂しさは理解する事はできないだろうから。
そう、私があなたの本当の悲しさや寂しさを理解できないように。


それでも。


こうする事で、少しでもあなたの寂しさを拭える事を私は知っているの。
だって私もあなたにそうされたら、心がほんわりと温かくなるから。



「時間は無限ではなく、有限で。全ての事に、いつか終わりはやってくる。終わりが無ければ、始まらない事と一緒だもの」
「……随分とはっきりと言い切るんだな。でもこう言う時は、もうちょっと甘い言葉を囁いてくれてもいいんだぜ?」
「あら、ごめんなさい。でもどんなに甘い言葉を囁いても、その言葉に中身がなければそれはただの戯言でしょ?」
「……いや、まあ、そうなんだけどさぁ」

何か言いたげに魔理沙はしていたけれど、しばらくしたらそのまま顔を伏せてしまって。

「容赦ないよな、お前……」

そんな事を言って拗ねてしまった彼女をみて、思わずくすりと笑みが漏れてしまった。
言いたい事も、言われたい事もわかっているけれど。


私の本当の言葉じゃなければ、貰っても意味が無いでしょう?


「魔理沙」

そっと、枕に顔をうずめてしまった彼女の背に顔を寄せて。

「大好きよ。終わりが来る、その瞬間までずっと」

その言葉で、一瞬にして魔理沙が固まって。
顔を見なくてもわかる。きっと今、彼女はすごく……。

「……は、はは。わ、私は愛されてるなー」
「ええ、そうよ。羨ましいわ」
「羨ましい事は無いだろ?あ、アリスだって、私から愛されてるんだからなっ」
「……ばか」

ぽすんと、魔理沙の背に顔をうずめる。耳の先が、とても熱い。
まさか、こんな風にカウンターが来るとは……思ってはいたけれど、平静さが足りていなかった。
その言葉を受け流せるほど、私はまだ成長できていなくって。
私もまだまだ、大人には程遠いみたいだ。





「おやすみ、アリス」

お互い心が落ち着いたところで、先程までと同じ体制に戻った後。
魔理沙がそんな言葉を、くれたから。

「おやすみ、魔理沙」

私も、同じ言葉を、魔理沙にあげて。


明日、起きたら『おはよう』の交換をしよう。
そして、次は笑顔の交換をするのだ。


全ての事に終わりは来る。
悲しいけれど、それは変わってくれる事はないのだ。
願わくば、すこしでも長く『今』が続いていきますようにと。


そんな事を願いながら、私は眠りについたのだった。

fin...
2011.03.05. up.

ちょっとシリアス気味なマリアリ
マリアリで寿命ネタは定番ですよね!

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