意地っ張りゲーム


ちらりと横をみる。
そこにあるのはアリスの横顔。
こちらを見ようともしないアリスの横顔。
私の視線になんて全く気づきもしない、アリスの横顔。

そんなアリスがなんでか憎たらしくって。それでいてそんなアリスにほっとしている自分。

この感情は、なんだろう?

自問自答しても、返ってきそうにない答え。
随分前から消えないもやもやに、悩まされる日々。

これって一体、なんだろう?

ペラリとアリスが読んでいる本のページを捲る。
その音でハッと我に返った。慌てて自分の読んでいた本へと視線を戻す。
でも、どこまで読んだか忘れてしまった。何やってんだ、私は。
仕方がないから開いたページの最初から読み始める。少しずつ読み進めていくと、先程まで読んでいた分へと辿り着く。今度はちゃんと集中しないと。

それからしばらく、ペラリペラリとページを捲る音だけが部屋に響く。
アリスが本を捲る音と、私が本を捲る音が交互に聞こえてくるのがなにか心地良い。

もぞりと、アリスが一つ身じろぎ。
つんっとアリスのひじが私の腕にぶつかった。
なんだかソレが妙に気になって、さっきアリスがしたように私もつんっとひとつアリスをひじで突いてやる。

どんな反応をするかとちょっとワクワクする。
『なに?』って言われるだろうか?それとも、ただこちらをチラ見するだけだろうか?

ワクワクしすぎて、思わず顔がにやけてしまいそうになる。
わざとじゃありませんよって、澄ましていたいのに。

「………」
「………」

でも、二人の間に流れるのは沈黙だけで。
期待しすぎた私は少し肩を落とす。なんだ、本当に偶然だと思ったのか、アリスの奴。

なんだか悔しくって、もう一度つんっとアリスを突いてやる。
今度はさっきよりもちょっと強めに。わざとだぞって、言わんばかりに。

「………」
「………」

待つこと数秒。反応なし。
今度こそと思って大きくなったワクワクは、一気にシュンと萎んでいった。

諦めてペラリとまた本を捲る。
アリスの奴、少しくらいは構ってくれたっていいのに。

それから数分。やっと本の内容が頭に入り始めたそんな時だった。
つんっと一回、アリスの肘が私の腕を突いた。

一気に頭から本の内容がぶっ飛んでいく。
今私の頭を占めるのは、アリスにどう返してやるか。それだけ。

なんだよって声に出すのもいいけれど、なんだかこっちが先にそれを言うのは少々癪だ。
だから、やっぱりもう一回つんっとアリスをひじで突き返す。今度はきっと、すぐに返って来る。

「………」
「………」

つんっ。
つんっ。
つんっ。
つんっ。

この部屋から、すっかりページを捲る音は消えた。
私達二人の意識は、如何にして先に相手に声を出させるかに飛んでしまっているから。

つんっ。
つんっ。
ツンッ。
ツンッ。

段々と強くなるお互いの力。
勢い余って、肩がぶつかる。アリスの位置が、少しだけ遠くなった。

「………」

それでもアリスは何も言わず。

「………」

私も黙っていたら、アリスも肩でぶつかってきた。
ぶつかる瞬間、アリスとの距離が縮まって。
ぶつかった瞬間、今度は私が少しだけアリスから遠くなった。

とんっ。
とんっ。
トンッ。
トンッ。

噴出しそうになるのを必死に堪えながら今度は少し弱めに体当たりをしてやれば、アリスも同じように返す。

トンッ。
トンッ。

「……っく」
「……ぷっ」

何度目かの体当たりの後、どうしても堪えきれなくなって思わず噴出した。
同時にアリスも噴出したんだから、今日は引き分け。勝てなかったのは悔しいけれど、楽しかったからよしとしよう。

「もう!なんなのよ、魔理沙」
「なんだよ、先にぶつかって来たのはそっちだろう?」

笑いながらそんな会話をして。
ほんわか、胸があったかくなる。
心地よくって、楽しくって嬉しくって。

「何よ、ニヤニヤ笑っちゃって」

一頻り笑った後、アリスがそんな事を言ってくるから。

「そっちこそ、顔ニヤけてるぜ」

私だって、そう返してやる。

傍からみたら二人ともおかしい人に見えるんじゃないだろうか?
ニヤニヤ笑いながら、二人でいがみ合ってるんだから。

「………」
「………」

そのまま数秒、私たちは顔を見合わせる。
何かを言いたいわけでもないし、何かを言われる様子もないけれど、なんでか視線を逸らせなくって。

「本、読めよ」
「そっちこそ、読めば良いじゃない」
「読むさ」
「私だって、読むわよ」

それから数秒後、私たちは同時に視線を逸らす。
先程と同じ距離に座り直して、またページを捲る。

ペラリ。
ペラリ。
ペラリ。

先程よりも少しばかり早い、ページを捲る音。

なんだかアリスとの距離がむず痒くって、落着かない。

この感覚は、なんだろう?

なんだか落着かなくて、身動ぎひとつ。
そしたら今度は、私のひじがつんっとアリスの腕にぶつかってしまった。

きっとこれから、また先程と同じゲームが始まる。
そんな予感に、心が躍る。


こちらを見てくれないアリスにやきもきして。
わけのわからないもやもやに悩まされて。
この数センチの距離が、なんだかむず痒い。

これって一体なんだろう?

自問自答しても、一向に答えは見つかりそうにないけれど。

一つだけわかるのは、アリスと一緒にこうしているのが好き。
ただ、それだけだ。



End.
2011.11.21. up.

マリアリがただいちゃこらしてるだけ。
魔理沙ちゃん自覚なし。

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