答えあわせ




「さあ、言いなさい」
「イヤ」

そんな押し問答をする声が、いつもは静かな紅魔館の図書館に響く。

いつもなら静かにしろと口煩いこの図書館の主は今、私の身体の下にいた。

「たった一言でしょ?なんで言えないのよ?」
「言う必要がないからよ。ねえレミィ、こんな言い争い馬鹿げているにも程があるわ。もういいでしょ?」
「例え馬鹿げていようが言わなきゃいけない時ってものがあるのよ、パチェ。さあ、観念して言ってみなさい?」
「そういう状況になっているかどうかは自分で判断できるもの。そしてそれは今じゃないことは確かだわ。だからイヤ」

頑なにあれこれあれこれと理由を付けて拒否を続ける親友以上恋人未満な目の前の魔女に、流石にイラついてくる。

そう、私達は『親友以上恋人未満』。
お互いの気持ちは通じ合っているんじゃないかと自分でも思うくらいなのだが、一向に仲が進展する気配さえないのだ。


原因は、私が今力任せに組み敷いている想い人にある。そうに決まっている。


「一回よ?たった一回きり、それだけで許してあげると言っているの!それで私達は晴れてその……こ、こいび……に……」
「はっきり言わないと聞こえないわ。最後までちゃんと喋って頂戴?」
「……っ!い、いいから早く言いなさいよ!」
「イヤと言ったらイヤよ。そんなに無理矢理言わせたいのなら、他をあたって頂戴。そうね、咲夜とかいいんじゃない?」
「な……っ!」

あまりの台詞に思わず絶句してしまう。
というかいつもこうだ。どうしてこの子はいっつもこうなのだ!

たった一言だけ。
『好き』その言葉だけが欲しいのに。

何度も何度もこうやって拒絶されたら、流石の私だって少しずつ不安になってくるんだから。

本当は、ただの自分の一人よがり。自意識過剰。ただの思い込み。
彼女は親友以上の事なんて何も望んでいないんじゃないかなんて、そんな風に思ってしまう。

もし、もしも。
そうなのだとしたら、どうすればいいのだろう?



だってもしそれが現実なのだとしたら――なんて酷い、一人遊び。



「……レミィ?」

下から聞こえたその訝しげな声。
紫の瞳が、真っ直ぐに私を捕らえている。

私はただ、その瞳をじっと見返すだけ。
何が出来るでもなく、ただただあなたを見つめるだけ。

吸血鬼の魅了の力を使えば、きっとすぐにあなたは私の望む言葉を言ってくれるけれど。
でもそれは、あなたの本心からの言葉なんかではなくって。
私が本当に欲しい言葉とは、全く違ったものになってしまうから。

「レミィ?どうしたの?諦めたのならソコからどいて頂戴。私の時間の邪魔をするのなら、あなたでも私は許さないわよ」


そう冷たく言い放つ魔女の瞳は、ずっと私を捕らえて離さない。


なんて滑稽な話なのだろう?
捕食者が、誰かに捕らわれているだなんて。



「それが『魔女』って生き物かもしれないわね……」



ポツリと自嘲と共に漏れたその言葉は、酷く悲しい響きをもった解。
何度解いても、いつも変わってくれる事の無い、残酷な解。



こんなこと、考えてもうだな事だなんてわかっているのに。
どうせ何度導き出したところで、答え合わせなど出来やしないのだから。




「……あなたはさっきから何を一人で盛り上がっているのかしら?」




そんな静かな声が耳に届いた瞬間に、ぐらりと視界が揺れた。
頬には、柔らかくて温かい感覚。
背中に絡む弱々しい感覚は、確かにパチェのもので。

「あなたは、私に言えって言うけれど……」

ほんの少し、背中に回された腕の力が強まる。
懸命に力をこめているなんて事、ちゃんとわかってる。
だって、短いようで長い付き合いだもの。人生の5分の1を、一緒に歩んできたのだから。
だから、どうしようもなく嬉しさが、愛しさがこみ上げてくる。


「あなただって、私に言った事無いじゃないの……」


ねぇ、パチェ。
やっぱり私達、ちゃんと想いあっていたんだよね。

どうやら、私の解は間違っていたみたい。

その事を、あなたの胸から直接伝わる鼓動が証明してくれているから。
何よりもわかりやすい、答えあわせ。



くすりと、思わず笑みが漏れる。
なぁんだ、パチェも私と同じ気持ちだったんじゃないの。



……でも、



「なんで私からそんな事言わなくちゃいけないのよ」



勿論、恥ずかしくって、そんな言葉口に出せるわけない。
空気を読むなんて、私のする仕事でもない。

するとしたら、それはパチェの仕事。
だって私は、この紅魔館の主。一番偉いのだもの。

折れるのだとしたら、パチェが折れるべきなのだ。



「……あなた、さっき自分で言わなきゃいけない時ってものがあるって言っていたでしょう?さあ、観念して言って」
「そんな状況じゃあないわ。ここはあなたが素直に私に言う場面でしょ?」
「……なんでそうなるのよ」
「と、とにかく!早く言わなきゃずっとこのままでいるわよ!離さないわ!」
「私だって、好きって言ってくれるまで離してあげないわ」
「な……っ!じゃ、じゃあ私は――」





そうしてまた、いつもは静かな紅魔館の図書館に押し問答する声が響き渡る。
声の主は、『自称』親友以上恋人未満な、この館の主の吸血鬼と図書館の主の魔女。

紅魔館の面々は口には出さないが、皆想う事は一つ。
『勝手にやっていろ』。ただそれだけだ。


ちなみに、幻想郷中では自分達がすっかり公認の恋人同士であるなんて事、勿論知っているわけもないのであった。


fin...
2011.03.05. up.

初レミパチュ
もっとレミパチュはやれよちくしょおおおおおお


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