差し入れを持っていっただけだったはずの話


ザッ……ザッ……

美鈴の落ち葉を掃く音を聞き始めて、気づけばもう十数分。
早く声を掛ければいいのに、私はどうしても声を掛けられずにいた。

彼女から見えそうで見えない位置から、真剣な顔でただ箒を動かす彼女をただ見つめる。
いつもはニコニコと笑っている彼女の真剣な表情がとても綺麗で、ずっと見ていたくて。
それなのに自分に早く気づいて欲しいなんて思ってもいるのだ。

でもいい加減そろそろ声を掛けないと、折角持ってきた暖かいお茶が冷めてしまう。
寒い中がんばる彼女にと思って持ってきたのに、それでは意味がない。
……でも、やっぱりもうちょっとだけこっそり見つめていたい気もする。

そんな葛藤をしていると、ビューっと冷たい風が体に吹き付ける。
ぶるりと一つ身震い。ほんの少しと思ってマフラーもせずに屋敷から出たけれども、これは少し失敗したかもしれない。

「いい加減戻らないと風邪引きますよ?咲夜さん」

唐突なその声に、ドキリと一つ大きく心臓が跳ねた。
先程の風で散らばってしまった落ち葉をまた集めながら、美鈴がこちらを向きもせずに声を掛けてきたのだ。
どうやら、とっくにこちらには気づいていたらしい。

「……気づいていたなら早く声を掛けてくれたっていいじゃない」
「咲夜さんこそ、そんなところにいないで早く声を掛けてくれたっていいじゃないですかー」

今度こそこちらを向いた彼女の顔は、いつものようにニコニコと笑っていて。
ちょっと残念だなんて思いながら、なにかほんわりと心が温かくなる。
彼女の真剣な表情も良いけれど、どうやら私はこちらの笑顔の方がどうしようも好きらしい。

「サボらないように見張ってたのよ。これはそのついで」

そんな言葉をつい返して、持ってきた水筒を差し出した。
我ながら、どうしてこう、可愛くないことばかり言ってしまうのか。

「わー!ありがとうございますー!」

そんな私の言葉を気にした様子もなく、ニコニコと彼女は水筒を受け取ってくれて。

はずみでちょんと触れた彼女の指。
冷たくなった私の手に、その部分だけ熱が伝わる。
たったそれだけで、きゅんとなってしまう自分が何か恥ずかしい。

「もー。そんなところに立ってるからこんなに手が冷たくなっちゃってるじゃないですかー」

そんな私を知ってか知らずか、彼女はそのままぎゅっと私の手を包んできて。

ああ、もう。
どうしてこの子は、あっさりこういう事をしてくれるのか。

「このくらい、平気よ……」

虚勢を張りたいのに、恥ずかしくて声が小さくなる。
恥ずかしくて離して欲しくって。でもやっぱり、離して欲しくなくって。

彼女の顔が見てられなくて、俯く。
足元に広がる真っ赤な紅葉と同じくらい、きっと私は今すごく赤く染まっているのだろう。

そんな私を、きっと美鈴はいつもの同じあのニコニコした笑顔で見ているのだ。

すごく、それが悔しくて。
どうしても、反撃したくなって。

「咲夜さん?どうして黙っちゃうんですか?」

彼女のその言葉が、反撃を目論む私の背を押した。

「やっぱり寒いから、温めて頂戴」

その言葉と同時に、彼女の胸に飛び込んだ。

「さ、咲夜さんっ?!」

驚く彼女の声と、どくんどくんという彼女の鼓動が心地いい。
ちらりと彼女の表情を盗み見れば、彼女も紅葉のように真っ赤な顔をしていて。

どうやら、反撃は成功。
でも、それを確認したと同時に自分のした行動にどうしようもないくらいに恥ずかしさがこみ上げてきて。

どくんどくんと煩いくらいに聞こえてくるこの鼓動は、彼女のものか、私のものか。
そんな事もわからないくらいに、今はもういっぱいいっぱいだ。
いつもは冷静に考えてから行動できるはずなのに、どうしてこう、美鈴の事になると軽率なことをしてしまうのか……。

「………」
「………」

それでもこのままでいたいなんて少し思ってしまうのは、きっと仕方のない事。

だから、ちょっと待つことにしよう。
さっきみたいに美鈴が声をかけてくれる、そんな時まで。

差し入れにと持ってきた飲み物は冷めてしまうかもしれないけれど、体は温まるのだからきっと結果は同じだろう。



End.

2011.11.13. up.

生放送への飛び入り参加SS(めーさく安価放送:お題『落ち葉とめーさく』)
落ち葉はあまり関係なくなりました\(^o^)/

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