約束事





小さな小さな喧嘩をした。
なんでそうなってしまったかわからないような、そんな喧嘩。

そっと覗いたドアの向こう、一人掛け用のソファーに座るアリスの姿。
背中から『来るな』というオーラが見えるようで、何か怖い。

それでも。

自分を奮い立たせ、部屋に一歩踏み込んで。


「アリス」


彼女の名を呼んでみる。
反応は全くなし。反応する気も、きっとなし。


「……アリスさーん」


今度はちょっと呼び方を変えてみるけれど、それでも反応は返ってくるわけもなく。


もうすでに心が折れそうだ。というか、今風が吹いたらぽっきりと折れてしまいそう。


それでもやっぱり謝りたくて。
私の声に、振り向いて欲しくって。


そっと、アリスに近づいてみる。
来るなと言われたらどうしようかとも思ったけれど、どうやらそうは言われないみたいだ。

顔を真っ直ぐみたいけど、怖くてそれは叶わないから。



覚悟を、決めろ。



そっと、ソファーに置いてあったアリスの左手に自分の手を重ねて、

「ごめんなさい」

たった一言だったけど、単純明快でわかりやすいそんな言葉をアリスに放つ。



ピクリと一つ、アリスの手に反応アリ。
文字通り、手応えアリ。



「……もうしないって約束できる?」
「多分しないって約束するぜ」


そんな返事を返したら、ペチンと重ねた手を叩かれた。
痛いけど、何でか嬉しくなってしまう。


それからすぐ、小さく呟くように君が言った『ごめんね』が、どうしようもなく可愛くって。


「ありすうううううううううう!!!」
「だ、だからそうやって急に抱きつくのやめなさいって言ってるでしょ!!!」



約束なんて、やっぱり絶対出来ないや。

だってアリスが可愛いすぎるのがいけないんだから。



fin...
2011.03.21. up.

第三回マリアリ文学祭への寄稿作品(ニコニココミュニティー内生放送企画)

夫婦喧嘩は犬も食わないんです。勝手にやってなさいって事で。
毎度ながらに在り来たりな話ですが、甘さを感じて頂けたら幸いですw


ご拝読ありがとうございました!

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