あんみんまくら


確かに、今日は絶好のお昼寝日和だとは思う。
ぽかぽかと日差しが気持ちいいし、家の中にいれば肌寒くなった風だって当たらない。
ウトウトしてしまう気持ちはすごくわかるんだ。
でも、なんかやっぱり納得いかない。今の状況は、少し面白くない。

「おい、寝るならベッド行けよ」
「……ん」

アリスがソファーの肘掛けに頭を預けてまどろみ始めたのは、もう数十分程前の事。
いつもは私が寝こけそうになりそうな状況なのだが、今日は珍しくアリスがそんな状況に陥っている。
ここ最近人形作りで忙しいと言っていたし、無理もない。少しでも寝てほしいな、とは確かに思うのだけれども……。

(……なんか、嫌だ)

隣に座ったアリスとの距離が、なんだかさっきより遠い。
私に気を使って肘掛け側に寄ったせいもあるんだろうけれども、なんだかそれが気に食わない。

「……アリス」
「………」
「……なぁ、アリスってば」
「……んー……」

寝ぼけているのか、子供のようにアリスはソファーに頬ずりをする。
その仕草は、なんだか小さな子供みたいだった。いつものアリスの姿からは全然想像できないような姿を見れている事がすごく嬉しくって、なんだかたまらなくなってくる。
それでも、なんだか面白くないって気持ちもやっぱり心の中で渦巻いていて、モヤモヤしていて。
我慢しろよって自分でも思うのに、なんだかやっぱり、すっきりしないのが嫌で嫌でしょうがなくって。

「……アリス」

そんなんだから、思わず行動に出てしまう。
つんっと服を引っ張って、アリスの名を呼んでしまったんだ。これじゃあ、ソファーに嫉妬しているみたいじゃないか、私。
でも、なんだか寂しさを滲ませたような自分の声音に、それを否定できなくなる自分がいた。なんともまあ、情けない声。
そんな私の声が届いたのか、アリスはゆっくりと身体を起こして、寝ぼけ眼で私の方を向く。

「ごめんなさい。せっかく魔理沙が来てくれてるのに、私ったら……」

眠そうに目を擦りながら、そんな事をアリスは言う。
違うんだ、寝ないで欲しいとか、そういうんじゃなくて。
そういうんじゃ、なくて。

上手く言葉にできなくて、じっとアリスの方を見つめる。
見つめただけで、このもやもやが伝わってくれればいいのに。
……いや、伝わったら伝わったでちょっと嫌かもしれないけれども。

「……私が寝ちゃうと、寂しい?」

そんな私の様子を見て、くすくすと彼女が笑うから。

「ち―〜〜っ!」

思わずカッとなって違うって答えそうになって、ぐっと言葉を飲み込んで。
違う。ここでムキになっちゃダメだ、私。
これ以上、情けなくって子供っぽいこと、したくないだろ?

「……こっち」

ぽんぽんっと、自分の膝を軽く叩く。
意味が全然通じてくれていないのか、アリスはただ首を傾げるだけで。
いつもはこれだけで意味が通じそうなものなのに、どうやらやはり、まだアリスは寝ぼけているらしい。

(……しょうがないやつ)

素直に言葉に出来ない自分の事は棚に上げて、ゆっくりとアリスの身体を引き寄せる。
アリスはと言えば、ただただ私にされるがままにされていて。
何を考えているんだろうと少しばかり疑問に思いはしたけれど、それよりも今は、照れやら気恥ずかしさでいっぱいで。

「ここ、だってば」

そう声をかけてから、そっと両膝の上にアリスの小さな頭を乗せてやる。
さらりとしたアリスの綺麗な髪が膝の上に落ちて、なんだかくすぐったくて、むずむずした。

なんだか顔から火が出そうなくらい熱いけれど、きっと気のせい。
膝の上にあるアリスの顔、今はちょっと見れる気がしないのも、きっと気のせいなんだ。

そんな私の様子を見てか、もう一度、くすくすとアリスが笑う。
笑いたきゃ笑えばいいよ、ちくしょう。こうなることは目に見えてたけど、やっぱりどうしてもこうしたかったんだ。

「安眠枕ね。すごくよく、眠れそう。私が寝ちゃっても、寂しくない?」

(……聞かなくたって、わかってるだろう)

素直じゃないその言葉は、そっと心の中で呟いて。
やんわりととアリスの頭を撫でてやれば、アリスはすぐに寝息を立て始めた。
なんだかそれがくすぐったくて、もう一度、膝の上にのっているアリスの髪を撫でる。
サラサラとして通りのいいソレはやっぱり私の膝の上に静かに落ちて、くすぐったかった。

さて、アリスが起きたらどうしようか?

そんな事を考えながら、私は開きっぱなしにしていた本へと視線を巡らす。

数時間後、やっぱりまたアリスに笑われてしまうかもだけれども。
そんなのも悪くないななんて思うのだから、もう私の頭は重症な気がする。

まあ、とりあえず。
このニヤけきった顔を、どうにかすることから始めようか。


END.

2012.10.15. up.

魔理沙とアリスの日に投稿した作品。
今考えて見ればこれ、続けて睡眠ネタ……w

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