だから、あなたに


元旦。
挨拶回りという名の宴会から帰った魔理沙を玄関で出迎えた私に、彼女は鉢植えを差し出す。

「なによ、これ」

差し出されたソレは、見覚えのある紫色のかわいい花。
そんなプレゼントを見て、思わず怪訝な顔をしてしまった。

「何って……花」

見れば分かるような説明を、彼女はする。

「それは見ればわかるわよ。なんで急にお花のプレゼント?って聞いてるの」

だから私は、思わず呆れた声でそんな事を言ってしまった。

「で、新年早々何をやらかしたの?」

新年早々こんなものを持って来るなんて、何かやらかしたに違いない。
機嫌取りなんてしないで、素直に謝ればいいのに。

「何もしてない。やましい事も何一つ無い。ただ黙って受け取ってくれよ、これくらい」

少しムッとしながら、魔理沙はそんな事を言う。
あくまでもただのプレゼントだと言いたいらしい。

「まあ、そう言うなら……」

とはいえ、今までこんな事一度もした事がない魔理沙がこんな事をしてくるなんて怪しすぎる。

「これ、なんていう花?」
「花は花だぜ。名前なんてわからん」

とりあえず当たり障りのないそんな質問をするも、魔理沙は素っ気無くそれだけ返す。
どうやら先程の私の態度に拗ねた様子。

「名前もわからないものを人にプレゼントするわけ?」

それくらいで拗ねてしまう彼女が可愛くて、思わず顔が緩む。
こんな顔を彼女から見られたらもっと拗ねてしまうだろうから、鉢植えを持ってくるりと方向転換。
玄関にある小さな窓の横にちょこんとソレを置いてみた。この様子からして、どうやらこれは本当にただのプレゼント。
そう思うと、どうにもこうにも嬉しくて堪らなくなってきた。
まさか、新年早々こんないい事があるだなんて。

ちょんっとひとつ、小さなその花を突く。
魔理沙の奴、この花の花言葉を知っていて贈ってくれたのかしら?

そんな事を思っていると、そっと後ろから抱きしめられる。
さりげなく胸に置かれた彼女の腕に苦笑して、そっと手を添えてずらした。

「……たまには、さ」
「え?」

魔理沙の腕をおなかの辺りまで下げた頃、魔理沙が耳元でぼそりと呟く。
抗議されると思っていたのに、その声は真剣な声で。

「今まで、まともなプレゼントなんてした事無かったし……」

その言葉で、彼女の唐突な行動の全てが私の中で繋がる。よくよく考えれば、この花はこの季節に咲くはずのない花。
そんな花を魔理沙が持ってきたのは、きっと幽香に頼んだからに違いない。

「で、この花なの?」

思わず、笑いがこみ上げてくる。
魔理沙ったら、随分と苦労したんじゃないだろうか?

「……もしかして、この花知ってるのか?」

そんな私の様子を不思議に思ったのか、彼女がそんな事を聞いてくるから。

「どうかしら?」

そんな風に私はとぼけてみせた。

「でも驚いた。魔理沙から花を貰う日が来るなんて、思いもしなかった」

くるりと彼女の方へと向き直りながら、笑顔でそう言う。

「あー……まー、たまにはなー」

彼女はそんな私の言葉を聞いて、気まずそうに目を逸らす。どうやら私がこの花を知っているとは思っていなかったようだ。
全く、変に格好つけようとするからこうなるのに。


ねえ、魔理沙。
あなたと出会ってもう10年。沢山の事があったよね。

10年前、抱き合った時の視線が高かったのは私の方だった。
そんな私達の身長差は、少しずつ縮まっていって、いつの間にか追い越されて。
今では、少し視線が高いのは魔理沙の方だ。

この変化がこんなにも愛おしいのは、あなたが今、こうやって隣にいてくれるからだよ。

だから。

「別にいいのよ、こんなことしなくたって」
「へ?」

私のそんな言葉に、彼女は間の抜けた声を出す。
予想通りすぎる反応を彼女が返すから、思わず私は笑ってしまった。「あのね、魔理沙」

伸ばした左手が、そっと彼女の温かい頬に触れる。

「毎日、色んな事に気付かされて。毎日、あなたがいてくれる事を幸せに思って。毎日毎日、あなたに沢山のものを貰ってるの」

そっと頬を撫でるとピクリと口元が動くのは、私達が出会った10年前と何も変わらぬまま。
あなたのそんなところが、愛おしくって。

「だからね、私は特別に何かを欲しいなんて思ってないわ。寧ろ、ね」

彼女の頬を撫でていたそっと左手を下ろす。

そして、

「いつもありがとう、魔理沙」

その言葉と同時に差し出した右手には、彼女のくれたベルフラワー。


だからあなたに、この花を。


「あなたと一緒にいられるこの日々が、私にとっての一番のプレゼント」


今こうしてあなたといられて、私は最高に幸せです。


「アリス」

そっと身体を離して、じっと彼女が私を見つめて。

「結婚しよう」

そんな事を、言い出すから。

「馬鹿ね、もうしてるじゃない。ごはん出来てるから、さっさと食べちゃって」

やっぱりそんな素直じゃない事を言って、私はさっさとキッチンへと歩き出す。

だって仕方ないじゃない。
何年経ったって、やっぱり恥ずかしいのには全然慣れないんだから。

End.

2012.1.1. up.

2012年、新年おめでとうございました。

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