言い出しっぺはいつもあなた


 確か最初に好きって言い出したのは、アリスの方だったと思うんだ。

 付き合おうって言い出したのだってアリスの方だし、初めてのデートやらお泊りやらだって最初に言い出したのはいっつもアリスの方からだった。

 いつだって私はそうやってアリスからしてもらうばっかりで。対等な関係だって思うのに、なんだかいつだって一歩リードされているのが悔しくて悔しくて。今回こそ、今日こそ絶対にアリスより先に言ってやるって決めていたのに。

「魔理沙?」

 机を挟んで向こう側にいるアリスは、いつもと何も変わらず。私はといえば、表情さえ変えられず。
 いやだって、アリスさん今なんて言いました?今すごーくさらっと、なんて言いましたか?

「いや、いま、なん……?」
「聞いてなかったの?私達一緒に住みましょうって言ったのよ」

 うん、どうやら聞き間違いではなかったようで。

「……いや。いやいやいやいや……」

 思わずそんな声が漏れ出る。いやだって。今日は私がな?ばっちりとな?決めるはずだったわけでな?

「嫌なら別に――」
「いやいやいやいや!」

 音がなるほどに全力で首を振って全否定。
 いやいやまさか嫌だなんてとんでもないっ!ていうかむしろ大歓迎なんだがっ!
 でもその、違うんだよ。今日はさ、そうじゃなくて。ああもう、なんか色々と予定が狂いまくってる。どうしよう、なんだこの状況!

「じゃあいつからにしましょうか?というか、あなたもうここに住んでるようなものなんだから今日からだっていいんじゃいかしら?」
「いや、まあそれはそうなんだが……」

 でもそうじゃない。そうじゃないんだって、アリスさん。
 今日は、今回は。
 私がこう、ばっちり決めるつもりだったわけでして。

 あまりの番狂わせにどうしたものかとポリポリとこめかみ辺りを掻いてしまったら、ずるりと帽子が目のあたりまで落ちてきた。慌てて抑えたけれども、しまった、これじゃあなんか顔を隠したみたいじゃないか。

 微妙な沈黙。あ、なんだろこれ。なんかすっごく空気が重い。

 チラリとアリスの方を見やるけれど、アリスの人形みたいに澄ました顔からはなにも読み取れなくって。いや、読み取られせまいって一生懸命澄ましているってのはわかるんだけれども。
 ああもう、本当は不安なくせに強がるなよな。だからお前は、いっつも判り難いんだよ。

 それにしてもアリスの奴、なんだって今日そういう事を言い出すんだ?というか、どうして私がこうやって言い出せない時に限ってなんでも言ってくれちゃうんだ?

 ……いや、まあ本当はわかってる。
 アリスはいつだって私が言い出せないから先回りしてくれているんだよな。
 私の事を、そのくらい見ていてくれてるんだよなって、わかってる。

 だから、さ。

「……あのさ」

 いつまでもこんなんじゃいけないよなって、そう思うんだ。
 好きで好きで仕方なくって、言いたくても言えなかった時に好き?ってキミが最初に言ってくれた。
 付き合ってるのかわからなくって、不安になった時にちゃんと付き合う?ってキミが言ってくれた。

「一緒に住むっていう前に、その、一個だけ」

 いっつも私が躊躇する一歩先に、キミがいてくれたけれども。

「これ」

 そっと立ち上がって、座るアリスの隣まで歩いて行って。
 言葉と共に差し出したのはずっと帽子に隠していた、可愛い一輪の赤い花。
 そっとアリスに手渡して、たった一言あなたに伝える。

「私と、ずっと一緒にいてください」

 今日からはさ、キミの隣を歩いて行きたい。
 手をとって、アリスと共に生きたいんだ。

「………」
「あ、いや……つまりなんだ。その、わ、私とけ、けっけっこ――」

 あ、やばい噛んだどもった裏返った!
 でもだってしょうがないじゃいか。だって勝手に、手が震えて視界が揺れりゅ。いやいやなんで思考の中でまで噛んでるんだよ私は緊張しすぎだろう!

「……ぷっ」

 そんな私を見て、アリスが吹き出す。
 なんだか無性に恥ずかしくなって、思わずそっぽを向いてしまった。
 ちくしょう、こんなはずじゃあなかったのに。なんだか今日はうまくいかない。……訂正、今日もうまくいかない。

「ねぇ、魔理沙」
「なんだよ」
「私の事、好きなの?」
「あん?」

 何を今更って質問に思わず視線を戻してしまって。
 あっ、て思う。そこにあったのは、あの日の、私達が恋人未満になった日のアリスの顔。

「私はあなたが好きよ。大好き」

 滅多に見せないキミの綺麗な綺麗な笑顔が、私にしか見せないで欲しいそんな顔がそこに咲いていて。
 思わずぐっと息を呑む。愛しさが胸の奥から溢れだして、止まらなくなる。

「私は」

 止まらなくなって、溢れ出す。

「愛してるぜ」

 あの日よりもずっとずっと大きくなった想いは、あの日とは違う言葉を紡ぎだした。
 言ってから、あまりの恥ずかしさになんだかちょっと逃げ出したくなったけれども。

「……台詞がくさいわよ、バカ」

 そう言って恥ずかしそうにするキミが今までみた何よりも綺麗で、綺麗すぎて。
 見惚れて逃げ出す事も忘れてしまったなんていうのは私だけの内緒だ。


 確か最初に好きって言い出したのは、アリスの方だった。
 でもあれって、思い出す。
 そういやあの日も、結局告白したのは今日みたいに私からだったんじゃなかったっけ?


END.

2013.6.17. up.

マリアリの日に(やっぱり遅刻して)投稿した作品。

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