ただいま研究中




まったく、どうしてこんな奴がいいんだろう?



何度目になるかわからない共同研究の打ち合わせ中のことだった。

「だーかーらー!ここはこうやった方が良いんだって!」
「だからっ!そこはこうした方が良いって言ってるじゃない?!」

簡単に終わるはずだった打ち合わせ。それは今や、ただの口論となっていた。
どうしてこうなったのか、理由は明白だ。
お互い自分の意見を全く曲げる気がなかったから。ただそれだけ。
自分でも思う程に馬鹿馬鹿しい理由すぎるけれど、どうしても譲りたくなかったのだ。

「ああもうやめやめ!これ以上言い合ったって埒が明かない!」

とうとう魔理沙はそんな叫び声をあげると、少し離れた椅子に移動していく。
そしてそのまま、私に背を向け本を読み始めてしまった。

「そうね。お互いちょっと頭を冷やした方がいいわ」

そんな態度に少しムカッときたけれど、今さっき休戦宣言されたばかりだ。
ここで突っかかってまた喧嘩になるのは、避けるべきだろう。

正直、魔理沙が休戦宣言してくれてほっとした。
もうそろそろ一区切りつけないときっとこのまま共同研究自体が流れてしまう。そんな風に私も思い始めた頃だったからだ。

(……お茶でも淹れてこようかしら)

きっとその方がいい。今一緒にいたらまた何か余計なことを言ってしまいそうだ。
それに、このままの空気で一緒にいたら、魔理沙のほうが先に出て行ってしまうかもしれない。
そうなったら、本当にこの共同研究はお流れになってしまうだろう。

淹れるお茶は何にしようか?
そういえばこの間買ってきたカモミールの葉がまだあるはずだ。リラックスするには丁度いいだろう。
ああ、でも確か……。

(魔理沙、あまりハーブティーは好きじゃないんだっけ……)

ちらりと魔理沙の方に視線を送る。
もし私の視線に気づいてくれたのなら、お伺いをたてたっていい。
そう思っているのに、魔理沙が振り向く様子は全く無い。

何も言わず立ち上がる。
何を淹れるにしても、とりあえず今はここを離れよう。

気配で気づいているはずなのに、やはり魔理沙はこちらを見もしない。声だってかけやしない。
本に夢中ですよ、なんて振りしたってちゃんと読んでないことなんてわかってるんだから。
ページを捲る手が早すぎるのよ、おバカ。

そっちがその気なら、私だってそうしてやる。
そう決めて、何も言わずにドアノブに手をかけた。

『どこ行くんだよ』

そんな言葉を少しだけ期待したけれど、やっぱりその言葉は掛けられることはなく。

バタン!

その事にまたイラついて、あてつけのようにいつもより少しだけ大きな音を立ててドアを閉めてやった。

そのまま、ドアに背を向けたままただ立ち尽くす。
そこまでして、私はやっと少しだけ冷静になれたのだ。

「……バカみたい」

思わず呟いてしまったその言葉は、自分自身への言葉。
一体、こんな意地を張って何になるというのだろうか?
何故こんな些細なことにさえ、こんなにイラつく必要があるというのか?

ほんの少し、視界がゆがむ。
ぐいっと乱暴に目元をぬぐって、思い切り上を向いた。

(ダメダメ。このくらいで、何を泣くことがあるって言うのよ)

気を取り直して、お茶の準備をするために台所へと歩き出す。

やっぱりお茶はカモミールティーにしようと、そう決めた。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



まったく、どうしてあんな奴がいいんだろう?

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆



言いたい事があるなら、直接言えばいいじゃないか。

何も言わずに部屋から出て行ったアリスに、私は憤慨していた。

何か言いたげににチラチラこちらを見ていたくせに、結局何も言わずに出て行ったアリス。
これ見よがしにドアを強く閉めていくなんて、怒っていますよと言っている様なものじゃあないか。

「ああ、もう!なんだよ、私の顔も見ていたくないって事かよっ!」

むしゃくしゃする。なんだってこう、ああ、もうっ!
この気持ち、なんて言葉で表していいかわからない。
とにかくただイラつくのだ。イライラが募って募って、今にも爆発してしまいそうだ。

本をバタンと乱暴に閉じ、力任せに振り上げる。

でも、振り上げたところで手を止めた。
イライラしたからって大事な本を放り投げるなんて、なんてバカらしい考えだろう。
第一、物にあたるだなんてまた子供扱いされちまいそうだ。

「……ああ、もう」

本を降ろして、くしゃくしゃと髪をかき混ぜる。
困った。この気持ち、どこにもやりようがない。

どうしてこんな事になってしまったんだろう?
今日はさっさと話し合いを終わらして、その後は二人でゆっくり過ごすつもりだったのに。
こんなくだらない喧嘩なんてしたくなかった。でも、やっぱりどうしても譲りたくなかったんだ。

楽しみにしてきた、この共同研究。
だからこそ、こんなところで躓いてしまったことが私のイライラを増幅させた原因だろう。

もっと最初から冷静に、素直に理由を説明して……そうすればきっと、もっと早く終わっていたはずなのに。
それでも素直になれない自分が悔しくって、情けなくって。
いつもは先回りして人の考えを読んじまうくせに、こういう時だけは鈍感なアリスにもむかついた。

本当は、何処に行くんだよってくらいは聞きたかったのに。
どうしても、あの時は振り向きたくなかったんだ。

まさか……このまま放置される、なんてことはないよな?

「………」

なんかちょっと冷や汗出たかもしれない。
いや、流石にそこまで怒らせてはいないはず。大丈夫、きっと大丈夫。

わかってはいるのに、どうにもこうにもやもやする。

「ええい!こうなったら本でも読んで気分転換だ!」

先程まで読む振りに使っていた本を開く。文字を追う。

「………」

ちっとも頭に入ってきやしない。

(……ない、よな?)

いや、ここでオロオロするなよ私。
ここはデーンと構えてだな……。

でも、やっぱりいなくなってたらどうしよう?
やっぱ探しに行くべきか?

(……いやいや、だから無いって)

そんな自問自答が、延々と頭の中をぐるぐる。

こうして、私の落ち着けない時間が始まったのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



まったく、どうしてあんな奴がいいのだろう?



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「あったあった」

無事カモミールの葉を見つけ出せた。
この間買ったばかりなのに、置いてあったはずの場所にその葉はなく。
はておかしい、となったところで思い出した。
この間私が人形作りがどうにもこうにもうまくいかずにイライラしていた時、魔理沙がこのハーブティーを淹れてきてくれたんだった。
たまには気が利くじゃないなんて感心したのに、適当な所に片付けて私を困らせるだなんて……まったく。

「子供扱いするな、なんて言うくせ……やっぱり、子供じゃない」

そんな憎まれ口をたたきながらも、なぜか勝手に頬が緩んでくることをおさえきれない。
こんなちょっとの事で、こんなにも心が和らいでしまう自分が何か恥ずかしい。

どんなに喧嘩したって、どんなにもう嫌だって思ったって、結局。
あの子と一緒にいると、なんだかんだで受け入れてしまうことが多くなった。

少しずつ少しずつ、私達はお互いを許しあっていって。

あの子の体温が隣に感じられるだけで、私は幸せ。
ただあの子の隣にいられる。それが私にとっての最大の幸福なのだ。

だからこそ。

いつか来る別れの日までの時間が、数分だって……いや、数秒だっていいから長くなって欲しい。
少しでも無理なんてして欲しくない。あの子に負担なんて、与えたくないのだ。

(……どうしてわからないのよ、バカ魔理沙)

いつでも力任せで、自分の体にどれだけの悪影響を及ぼしているのか。
いくら言っても聞く耳を持ってくれないけれど、私と一緒に研究をするのならそこは譲れない。

(だからこそ、魔理沙のあの提案は絶対に受け入れないわ)

確かに目指すところへの近道。成功すれば、成果はかなり大きい。
でもリスクが多すぎる。そんなの、ダメに決まっている。
しかもよりリスクが多いのは私ではなく、魔理沙の方。

(『私の方が大変だしそっちの方がアリスもいいだろ?』ですって?!人のことバカにして……!)

思い出しただけでも腹が立つ。
何よ、それ。本当にバカにしてる!
誰が私の負担を減らせといったのよ?!一言も言ってないでしょ!!
私はね、少しでもいいからあんたの力になりたかったのよ?!
それなのに私は楽をしろって……いうの……?

あれ?何かがひっかかった。
おかしい、何かが違う気がする。
魔理沙の言葉の意味を、私はきっと履き違えている。

(……そうよ、私の負担が少ないのよ)

ああ、そうか。
どうして、私は気づけなかったのか。


結局、あの子も私と同じで……。


シュンシュンと、ケトルからお湯の沸いたことを知らせる音が聞こえてくる。
カップとポットの準備ももう出来ている。あとは、これを持って部屋に戻るだけ。

そっとトレーを持ち上げる。
なんとなく自分で持って行きたい気分だったから、人形に持たせることはしなかった。

あんなに重かった足取りが、今はこんなにも軽い。

先程の魔理沙の背中を思い出す。
今もあのままでいるんだろうか?
まあおそらく、何も言わないで来たから今頃ヤキモキしているんだろうけれど。

勝手に笑みがこぼれてくる。

(本当、おバカ……)



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



まったく、どうしてあんな奴がいいんだろう?



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「アリスの奴、本当に何処行ったんだよ……」

誰もいない部屋に、そんな自分の声だけが響いた。

ちらりと時計を見れば、アリスが出て行ってから十数分。
そんなに時間が経っていないことに、自分が一番驚いた。

気づけば本を持ったままの手にかなりの汗をかいているし、暑くもないのに額は変な汗でいっぱいだし、本当にもう、なんだこれ。

(……なんで私はこんなに情けないんだよ)

自分でも思ってしまうくらいに、きっと今かなり私は情けない。

本を投げ出す。
打ち合わせをしていた時に座っていたソファーまで行って、ごろんとうつぶせに寝転がった。

「なんか……疲れた……」

何をしていたわけではないけれど。
何をできるわけでもないのだけれど。

何だっけ。なんかこんな事、前もあった気がする。

(……というか、いつもこんなんだっけ)

そうだよ。よくよく考えれば、こんなの日常茶飯事じゃないか……。

あいつと意見が合わないのだっていつもの事だし、自分の思ってる事がなぜか憎まれ口に変換されてしまうのだっていつもの事。
それでも一緒にいたいって思うのは、素直になれないって自己嫌悪するのは、あいつのそばにいたいから。
あいつといられると、私はどうしよもなく幸せ。
くだらない話でもいい。ただ黙って一緒の空間にいられるだけでもいい。

今回の研究だって、確かに長い時間一緒にいられるといいとは思っているんだ。
だからと言って、アリスの提案するものを受け入れられるかといえば別だ。
確かにリスクは少ない。だが、如何せん時間がかかりすぎる。
私は別にいい。でも、問題はアリスだ。
今回の共同研究は、私がアリスに協力を願い出たようなものだ。
あいつにとって本当に必要な研究か、今すぐ必要な研究かと問われれば、絶対に違うはずなんだ。

それなのに、あいつは私の為に時間を裂いてくれる。
それは結局、私があいつの負担になっていることに他ならない。

重荷になんてなりたくないんだ。
だから多少無理をしてでも、あいつの邪魔をしない私でありたい。
それでも少しでも、あいつとの時間を共有したい。同じ事を一緒に出来たのなら、嬉しい。

共同研究をしなければいい。そう言われてしまえばなにも反論は出来ない。
でも、あいつと同じものを共有できるこの幸せは、捨てられない。

悔しいけれど、今はまだ私の実力はあいつよりもずっと下。
いつか絶対に追いついてやるけれど、今はまだあいつと同じものを求められる立場に私はいない。
だからこそ、こうやって一緒に研究できる機会があるのなら、それを逃したくは無いんだ。

私は我侭なのだろう。
あれもこれも欲しいんだ。アリスの事となれば、尚更。
私は我侭なんだ。
少しでもアリスの事を独占したい気持ちに結局は勝てないんだから。

私が歩むと決めたこの道は、矛盾だらけでめちゃくちゃな曲がりくねった道。
これが近道なのか、遠回りなのか。
そんなこと、今の私にはわからないけれど。

辿り着いた先、私は胸を張って言えるだろう。
私にとって、一番大事な物を手に入れられる道を選んできた。それだけは絶対だって。

この事を、うまくアリスに説明すればいい。ちゃんと素直に伝えなきゃいけない。

そうやって、少しずつ少しずつ、私達はお互いを許しあって来た。
だから今回だって、きっとそれを出来るはずなんだ。


「……よしっ!」

ソファーから跳ね起きる。
覚悟は出来た。アリスを探しに行こう。
気持ち大股でドアの方へ。

(行くぜ!)

そんな掛け声を掛けて、ドアを開いたその瞬間。

「キャッ!」
「うわっ!」

ティーセット一式をおぼんに乗せた、ご本人がそこに立っていた。

待ってくれよ。ちょっと早いよ。タイミングが悪い!

(まだ心の準備、出来てないって!)



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



まったく、どうしてこんな奴がいいのだろう?



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「……お茶淹れてきたんだけれど」
「……うん」

ほんの少しの沈黙の後、そんなどうでもいいような言葉を交わす。
驚いた。人形に開けさせようとしていたドアが勝手に開いたのだから、当然の反応。ティーセットの乗ったトレイを落とさなかった事を褒めて欲しいくらいだ。

「……どこかいくの?」
「あ、いや……別に……」

至極簡単な質問に、魔理沙はしどろもどろになりながら適当な言葉を返す。
たった一言『そう』と返して、そのまま何も言わずに部屋の中に入る。魔理沙はドアを閉めて私の後に続いてきた。

(別に、ですって)

ソファーに腰を落ち着けた後、お茶の準備をしながら先程の魔理沙の様子を思い出した。
視線をさまよわせながらそんなわけのわからない事をいってしまったことに、彼女は気づいているんだろうか?
別に用も無いのにドアを開けるって、どういう状況なのか突っ込んでやりたい。

(でも……)

ちらりと魔理沙の方を盗み見る。
そわそわと落ち着かないような様子の彼女は、私の視線に気づく様子も無い。

思わず笑いがこみ上げてきたけれど、必死にこらえた。ほんの少し、ティーポットを持つ手が震えてしまったけれど、今の魔理沙はそんなことに気づけるはずも無いからいいと思う。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



まったく、どうしてこんな奴がいいのだろう?



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



(どうしよう。なんて切り出せばいい)

目の前で彼女がお茶の準備をしてくれている。
出て行ったのはこれの為だったのだろう。しかもご丁寧に、今日のお茶は私の苦手なハーブティーだ。

(くそう……嫌味な事しやがって……)

なんだよ、まだ怒っているって言いたいのか?
これは早くちゃんと説明しなくちゃ、ますます拗れる気がする。

でも、一体どうやって切り出せばいいんだろうか?

ええと、そうだな……
『なんだよ、茶の準備なら茶の準備って言っていけばいいだろ?』

(……いやいや、なんでそこでまた喧嘩を売るんだよ私!)

ここはあれだ。無難に……
『アリスのばか……急に消えたから心配しただろう?』

(……どこらが無難なんだあああああ?!)

駄目だ。全然駄目だ。ダメダメすぎて自分でもあきれるくらいだ。

どうしよう。
どうしたらいい!

私がこんなに焦っているというのに、アリスは平然とお茶の準備を進めている。
ああ、もう!なんだよ、アリスのバカ!



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



まったく、どうしてこんな奴がいいのだろう?



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



(今度は百面相始めてる……)

お湯を注ぎ蒸らしている間、こっそり魔理沙を眺めていた。
きっと、どうやって声を掛けようかなんて思ってるんだろう。あれも駄目これも駄目ってきっと思ってるんだろうな。全部、顔に出てる。
焦っているのが手に取るようにわかる。だって、私がこんなに見つめているのに魔理沙ったら全然気づく様子も無い。
ちょっと困る。魔理沙、可愛すぎ。

もう少しこの可愛い魔理沙を拝んでいたいけれど、これ以上意地悪するのも可哀そうだからこちらから声を掛けてやることにしようと思う。

「ねぇ、魔理沙」
「な、なんだよ!」

必要以上に大きな声で返事が来た。
動揺しすぎ。わかりやすすぎ。
『ちょっとは落ち着いたら?』なんて言葉が出そうになるけれど、今話すべきはそこじゃあない。

お茶をカップに注ぎながら、本題を切り出す。切り出さなきゃいけない。
ポットを持つ手が、先程とは違う意味で少し震えた。

部屋の空気が張り詰めるのがわかった。
それでも、ちゃんと言わなきゃいけない。

魔理沙がじっと私を見つめている。
何を思っているんだろうか?

「研究、魔理沙の案を軸にして進めましょう」

少し震えた私のその言葉が、部屋の中に響いた気がした。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



まったく、どうしてこんな奴がいいのだろうか?



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「魔理沙の案を軸にして進めましょう」

正直、拍子抜けした。

「……は?」

思わず、声も出た。

「何よその間抜け面。言っておくけど、このままの案でいくとは言ってないからね」

澄ました顔でお茶をこちらに差し出してくるアリスは、きちんと釘をさすことも忘れない。

お茶を受け取って、一口すすって。

(ハーブティー、やっぱちょっと苦手だな)

ぼんやりとした頭で、そんな事を考え。

「……で、なんだって?」

もう一回、アリスに聞きなおした。

「魔理沙の案を軸にして今後の方針を考えるって言ったのよ」

やっぱりアリスは澄ました顔でお茶を啜っていて。

「………はぁあ?!」

やっと理解したアリスの言葉に、思わず私はそんな声を上げた。

「何よ、不満なの?折角私が折れたって言うのに」
「いや、何で急にそうなるんだよ?納得のいく説明をしろよ!」
「説明……ね……」

そういってアリスはちょっと考え込んでから、

「今回は魔理沙を立ててあげようかと考え直しただけよ」

やっぱり澄ました顔でそんな事を言ってくださいまして。

「な……」

(なんだよそれはあああああ!)

心の中で思い切り叫ぶ。
ああちくしょ!納得いかない!
そしてなにより……

(この私の覚悟は、無かったことにする気なのかよ……!)

行き場の無い憤り。
今ここで『本当は、こう考えてたんだ……』なんて言える気分には全くなれず。

「なんだよそれ!ちゃんと説明しろ!納得のいくように説明するんだ!!」

声のあらん限り、叫ぶ。
家中に私の声が響き渡る。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



まったく、本当になんでこんな奴が良いんだろう?



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「近所迷惑」
「近所なんてどこにあるっていうんだよ?!この家の一番の近所は私の家だろ?!」
「だから、近所迷惑。ご近所さんの私が今迷惑してるじゃない」
「何さりげなくうまいこと言ってるんだよ……っ!」

わなわなと震える魔理沙を横目に、もう一口お茶を啜る。

本当はあんな風な言い方をするつもりはまったく無かったんだけれど、どうしても素直になんて言えなくって。

(ごめんね……)

ギャーギャーと喚く魔理沙を適当に往なしながら、心の中でだけ謝る。
ああもう、なんで私はこんなに捻くれているのだろう。
自分でも不思議になるくらいに、素直になれない私がいる。

でも、魔理沙も素直じゃないんだからきっとお互い様。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「適当に返事してないでちゃんと答えろよ!」

適当にいなすアリスに怒りを覚えながらも、自然に頬が緩んでくる。
むかつくけど、本当は嬉しいんだ。

だって、こんなにあっさりアリスが引き下がってくれたのは、きっとアリスが私の意図に気づいてくれたから。
本当、素直じゃない。

そして。

(ありがとな、アリス)

心の中でだけしか感謝を伝えられない私も、本当に素直じゃない。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



まったく、どうしてこんな奴が好きなんだろうか?



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



魔理沙の方を見る。
思わず吹き出してしまいそうになった。

魔理沙の奴、怒りながら笑ってる。
本当、おばか。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



アリスがこっちを向く。
思わず怒っている振りを忘れてしまった。

思わず声を上げて笑い出した。
笑顔のアリスが途端に不満げな顔をする。

本当、素直じゃない奴。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



本当、どうしてこんな奴が好きなんだろう?

わからないけど、やっぱり私はあなたが好き。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



私たちが出会ってから、ずっと研究課題になっていることをふと思い出す。
それは、私達が素直になれる、そんな方法の研究。

それは未だに、まったく進んでくれない研究なのだ。

成果が上がる日が来るのはいつかなんて、そんなことは今の私たちにはわからないけれど……。

そんな方法、ただいま研究中!



-End-

2012.2.29. up.

ニコニコ動画にて、絵師様と作成した動画の原文となります。

↓動画↓


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