MK5

初めてあなたとキスをした。

ただ一緒のソファーに座って、他愛無い会話を楽しんでいただけだったはずなのに。
あなたと目が会った瞬間、ただそうしなければいけないような、そんな衝動に駆られてしまったのだ。

「………」
「………」

何を言っていいのかわからなくて、ただ見つめ合っているだけの無言の時間が流れる。
唇が離れてすぐだったらきっと何か言いようがあったはずなのに、どうして私達は黙ってしまったのだろうか。
そんな事を今後悔したって、しょうがないわけだけれども。

キスをしてしまった私達。
そんな私達二人の関係は、ただの友達にすぎない。

お互いの家に遊びに行ったりする程度の、そんなお友達。
たまに物を借りたり、ご飯をご馳走になったりする程度のお友達のはずだった。

それ以上、踏み込むつもりなんて私にはなかった。多分、アリスにもなかった。
友達と言う関係を壊すつもりなんて、なかったはずなのに。

あなたとキスした五秒後に、やっと私は気付いたんだ。
思わずキスをしてしまうほどに、私の心はあなたに惹かれていたのだという事に。
やらかしてしまってから、気付いたんだ。

じっとこちらを見つめるアリスの瞳が、何かを訴えるかのようにゆらりと揺れる。
それに気付いてしまった私は、開きかけた彼女の口をまた唇で塞いだ。

「ん……っ」

そんな可愛い声を上げ、アリスはぎゅっと目を瞑る。
それを見届けてから、私もうっすらと開けていた目を静かに閉じた。

先程よりもほんの少しだけ長いキス。
一瞬ちょんっと触れただけの一回目のキスよりも、きちんとアリスの唇の感触を感じられる、そんなキスだった。

「………」
「………」

そしてまた、二人の間には沈黙が流れる。
正直、今の私にはこの沈黙がありがたかった。

『なんで?』

そんな風にアリスに聞かれても、それに答える勇気と覚悟が私にはまだ足りない。

だってアリスと私は友達だった。
それなのにこんな事をやらかしてしまったのだから、それなりの説明が無ければきっとそんな関係はあっけなく壊れてしまうだろう。
でも、この関係を壊してしまう覚悟なんてあまりに唐突過ぎて私にはまだあるわけもなく。
だからと言って、この場しのぎの嘘で誤魔化すのも何か嫌で。

でも、本気で嫌ならきっと二度目のキスは逃げられたはずなのに。
アリスは、逃げなかったじゃあないか。

ぼんやりとした表情でこちらを見つめるアリスは、今何を考えているのだろう?
もしかして、私と同じ事を……。

まさかありえないなんて思う一方で、私はそんなおバカな期待をしてしまって。

「なあ、アリス」

思わず私は、口を開く。
結局覚悟なんて何一つ出来ないままに、ただただそんなおバカな期待で心躍らせて。

「す――…っ」

でも、私の言葉はアリスによって遮られる。
さっき私がしたようなそんなキスで、今度はアリスから。

思ってもみなかった彼女の行動に私は少し驚いたけれど、結局そのまま目を閉じた。

このキスが終わった五秒後に。
私はこの思いをきちんとあなたに伝えようと思う。

だから今は、少し震えるあなたの唇をただただ楽しもう。

End.
2012.3.26. up.

魔理沙サイドのお話。
twitterで話題になったので書いたらしい。もちろん素直に五秒前を書くわけもなく。

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