眠り姫


ソファーで眠る、アリスの姿をただ見つめていただけのはずだった。
あまり見る事の出来ない、アリスの寝顔。
いい機会だから焼き付けておこうと思っていたのに、どうして。

「なんで、膝枕……」

喜んでいいのやら、なんなのやら。
最初はきちんと座って寝ていたくせに、倒れこんできたと思ったらこの体制って……こいつ、案外寝相が悪い。
どうしていいのかわからず、とりあえず硬直してかれこれ三十分。
一向に起きる気配のないアリス。本当、私は一体どうすればいいというのだろうか?

「ありすさーん……」

小さな声で呼びかけてみるも、反応はなし。
わかってはいたけれど、どうやらぐっすりと熟睡してしまっているようだ。
そういえば、あんまり寝てないって私が来た時に言ってたっけ。

(こいつ、人には夜更かしするなとかなんとか口うるさく言うくせに……)

自分の事は棚に上げやがって、なんて考えていると、アリスがもぞりとひとつ身じろぎ。

「ひゃっ」

妙なくすぐったさに思わずそんな声を上げて、慌てて口をふさいだ。
そっと下を見下ろすも、どうやらアリスはまだ夢の中。
ほっと胸をなでおろして、はたと気づく。
いやいや、私はアリスを起こそうと思ってたんだろうが。

さて、困った。本当にどうしたもんか。

正直、そろそろ私の足が悲鳴を上げ始めたのだ。
少しずつ痺れていく自分の足。これ、このまま夜までコースとかになってしまったら本当にきつい。多分ヤバイ。

とはいえ、やっぱり無理やり起こすのは何か気が引けて。
さーて、本当にどうしたものかと思った時、ふと目に入ったものがあった。

「……この作戦で行くか」

目に入ったのは、髪の間からのぞく、アリスの耳。
耳のそばまでそっと顔を寄せて、囁くように声をかける。

「なあ、アリス……起きろよ……」

言うだけ言って、すぐにパっと顔を上げる。
なんだか妙に恥ずかしかった。
言っておいてなんだけど、自分の顔面が妙に熱い。

「……んっ……」

やっぱりやめようか、なんて考えていた時、小さなアリスの声が耳に入った。
もしかして、これ効果あるんじゃないだろうか?

「……よし」

覚悟を決めて、もう一度顔を寄せる。
鼻孔をくすぐるアリスの甘い香りに、少々めまいを覚えたが、どうにか耐えた。

「な、アリス……。起きないと、このままちゅーしちゃうぜ?」

……って、何を言ってんだ私は!!!

思わずのけぞるくらいの勢いで、ガバリと身を起こした。
いや、その、思わず気分で!

誰に言い訳するでもなく。そもそも、声にもしていないんだから意味もないのだけれども。
それでもきょろきょろと挙動不審気味に辺りを見回し続けて、数秒後。
やっと我に返り、大きな大きなため息を吐いた。
こんなにも挙動不審なことをしているのに、アリスの奴、ちっとも起きやしないし。

「……なんだよ、もう」

何か、一人でばかみたいだ。
虚しくって、なんだかバカバカしくって。
寝顔もいいかもな、なんて思っていたけれども、何を言っても反応のないアリスなんてつまらない。
……なによりも、なんだか寂しいじゃないか。

そっと、アリスの頬にかかる髪を耳元にかけてやる。
早く起きろよ、バカ。そうしないと、本当に……。

「アリスのこと、食べちまうぞ?」

もう一度、耳元でそんなセリフを囁いて。
そっと、頬に口唇を寄せた。

その時だった。

「どうぞ、たっぷりお食べなさいな?」

がっちりと頭を掴まれ、そのままホールド。
こいつ、やっぱり起きてやがった!

「お、起きてるんならそう言えよ!バカ!」
「寝てたんだから、起きてるなんて言えなかったわよ?」

そう言ってしゃあしゃあと笑うアリスが、憎たらしいったらありゃしない。

「で、どうするのかしら?ちょうど今、食べごろとなっておりますが?」

ありふれた台詞を妖美な笑顔で吐きながら、アリスが私を誘う。
そんな魅力的な誘いを断る術など、私は知らないから。

「……じゃあ、遠慮無くいただくとするかな」

誘いにのって、可愛らしい唇にキスを落とす。

やっぱり起きているアリスのほうがずっといいやなんて、そんな事を思った。


END.

2012.6.17. up.

マリアリの日に(遅刻だけど)投稿した作品。

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